細胞内や細胞膜上の化学物質の濃度分布や細胞の内部情報が、細胞形状や細胞集団の運動にどのような影響を与えるのかを系統的に理解できるような数理モデルの構築を目指している。このような数理モデルが作成できれば、個々の細胞がどのように集団特性を変化させるかを明らかにすることができるようになり、細胞の基礎研究に貢献できると考えている。また、三次元空間の細胞分布や細胞極性に関する実験データの理解はもちろんのこと、癌の転移や創傷治癒などの医学的に重要な応用研究への展開も期待できる。 このような目的を達成するため、本研究では、細胞集団の数理モデル化、その数値計算、実験データの画像解析を実施した。具体的には、細胞集団を表すフェーズフィールドモデルに細胞分裂や分子の局在という細胞らしさを汲み込み、卵割や嚢胞などの数値計算を行った。また、同時にさまざまな画像解析手法を用いて実験画像から細胞集団運動の特性を数値化し、今後の細胞集団運動の数理モデル開発への道筋をつけた。 特に今年度は、千葉大の菅原路子氏と協力して、画像解析によって細胞の輪郭抽出に焦点を当てて研究を行った。昨年度に用いた機械学習法では輪郭抽出できない細胞が20%存在しており、抽出された輪郭も正確ではなかったため、今年度は別のアルゴリズムの機械学習法を用いて教師データを変えて精度を検証した。その結果、90%以上の細胞の輪郭抽出が可能になり、細胞の位置や種類による運動性の違いを明らかにすることができるようになった。また、粒子法による細胞追跡の精度もかなりあげることができるようになった。今後はこれらの手法の長所を組み合わせることで解析精度を上げ、細胞の個性が細胞集団に与える影響を正確に捉え、その結果を数理モデリングに活かしていく。
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