研究課題
今年度は火星下層大気の物理過程の充実に注力し、特に水平高分解能計算に力点を置いて成果を上げた。具体的には、ドイツ・マックスプランク太陽系研究所と共同で進めていた火星下層~中層大気における重力波の励起と伝播について、その季節変化を含む解析を行った論文が雑誌Journal of the Atmospheric Sciencesに受理、掲載された。また、日本地球惑星科学連合大会、米国で開催されたDPS/EPSC合同大会、スペインで開催された6th international workshop of the Mars atmosphereで同内容についての発表を行った。さらにダストの巻き上げをモデルに導入し、重力波励起・伝播における対流の効果を考慮した研究にも着手しており、初期結果は2017年6月に米国で開催されるDust in the Atmosphere of Mars and Its Impact on Human Explorationワークショップで発表予定である。また、水平高分解能での水循環及びHDO/H2O同位体分別のシミュレーションを行い、SGEPSS学会及び6th international workshop of the Mars atmosphereで発表した。これは今後導入する大気化学過程の基礎となるものである。さらにアイスランドで開催された6th International Conference on Mars polar Science and Explorationでは、水平高分解能での極域での二酸化炭素凝結・季節極冠生成シミュレーションの様子、及び二酸化炭素雲の放射効果について発表を行った。さらに、米国の火星探査機MAVENのデータ解析研究に協力し、査読付きの共著論文が2本雑誌に掲載された。
2: おおむね順調に進展している
申請者の火星大気大循環モデルとその研究業績は世界で着実に評価を高めており、現在世界的に火星探査への機運が高まっている中で、観測プロジェクトへの協力など幅広く共同研究の声がかかっている状態である。今年度は火星下層・中層大気シミュレーションの土台固めを行い、残り2年間で大気化学過程の導入や上層への拡張を進める土台が形成された。その見通しは明るく、それによりさらなる成果の創出・協力関係の構築も見込めるため、研究の目的達成に向けた進展状況はおおむね順調といえる。
申請者の火星大気大循環モデルを用いた水平高分解能計算による火星下層~中層大気における重力波の励起と伝播についての研究は、申請者の主導でさらなる論文の執筆・投稿が予定されている。またこのモデルの結果をMAVENデータ解析結果の解釈に用いた論文の執筆も進んでおり、こちらも近く投稿が予定されている。今後火星地表面付近における対流の効果もモデルに導入され、また熱圏への拡張が予定されていることで、火星重力波シミュレーション、さらにそこから派生する火星熱圏・大気散逸シミュレーションのさらなる精度向上が見込まれる。さらに水循環・水同位体分別・大気化学過程を導入したシミュレーションは、2016年10月に火星周回軌道に投入されたExoMars Trace Gas Orbiter観測との強い連携が見込まれている。ベルギーやロシアを中心とした測器チームと連携し、モデリングで大気微量物質の観測をサポートしていく。
予定していたサーバー及びハードディスクの購入を既存のものを利用することで見送ったことにより、261,818円の次年度使用額が生じた。
今後成果発表をより精力的に行うべく、国際学会への旅費及び論文投稿料に充てる。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 3件、 査読あり 3件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (12件) (うち国際学会 6件、 招待講演 2件)
Journal of Geophysical Research Space Physics
巻: 122 ページ: 2374-2397
10.1002/2016JA023476
Geophysical Research Letters
巻: 43 ページ: 3095-3104
10.1002/2016GL068388
Journal of the Atmospheric Science
巻: 73 ページ: 4895-4909
10.1175/JAS-D-16-0142.1