今年度は前年度に引き続ぎ、現在の火星、及び約38億年前を想定した古火星における水環境を理解し、気候変動への理解につなげていく研究を進めた。火星大気大循環モデルを用いた現在火星の水循環・HDO/H2O同位体分別及びCO2降雪の計算は、水平分解能(グリッド間隔)を約333km~67kmの間で変化させる中でどのように結果が変わるかを各分解能のモデルの中で再現可能な力学過程(重力波など)の差からまとめる研究に着手し、現在論文投稿準備中である。また高分解能水循環モデルを用いて、火星地表面における水蒸気の放出源として考えられるRSL(Recurring Slope Lineare)からの水蒸気放出を仮定した計算も行い、今後観測との連携も予定している。 古火星の水循環研究においては、地表1.5~2気圧のCO2・H2O大気にH2(惑星内部からの脱ガスによる)を1~数%の混合比で導入し、CO2・H2分子の衝突に伴う赤外線の吸収を大きくすることにより、地表に液体の水が存在しうるほどの十分な温暖化が起きうることを示した。特に地表1.5気圧、H2混合比3%の条件は赤道域で降雨・積雪が季節によって繰り返される「冷涼・湿潤」な気候となり、これが約100万年続くと現在残る流水地形(Valley network)が形成できる地表流水量をもたらしうることを示した。この研究内容はIcarusに受理され、出版された。 火星大気重力波の研究においては、高分解能モデルを用いて重力波の励起・伝播と中層大気場に与える影響の季節変化を示した論文がJournal of Geophysical Research Planetsより出版された。続けて2018年の全球ダストストームに対応するダスト量を導入した計算をこのモデルを用いて行い、近々投稿予定となっている。
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