研究課題
台風強度は統計力学モデルや簡易力学モデル、緻密な数値予報モデルによる予報を単体で用いるよりも、それらを組み合わせることで最も予報精度が良いことが知られている。本研究では、環境場の外的要因と台風の内部力学の役割に着目して、各モデルがどのような事例に対して台風強度変化を捉えられるのかを明らかにする。本年度は北西太平洋域の過去3年間(2012-2014)に発生した台風に対して、簡易力学・統計力学・数値予報モデルの3つを用いた数値実験結果を解析し、それらを組み合わせることで台風強度変化がよく再現できるか検証した。モデル単体では統計力学モデルが台風強度変化を最もよく再現したが、急激な台風強度変化を表現することはできなかった。簡易力学モデルは誤差が大きいが、急激な変化を表現するポテンシャルを持つことを示した。数値予報モデルも急激な発達の表現は不十分であったが、地形効果などの複雑な要因が絡む事例の再現性は最もよかった。数値予報モデルに用いられる初期値はやや低解像度の解析値であるため、実況の台風強度を反映できていない。そのため、台風の初期値化を適切に行う必要があることが示された。3つのモデル結果を組み合わせたものは、それぞれのモデル単体より再現性がよかった。統計力学モデルは主に環境場の外的要因を考慮して台風強度変化を予測するので、数日の時間スケールでは多くの事例において台風強度変化は外的要因の寄与で説明されると考えられる。しかし、24時間程度の短時間での強度変化は簡易力学モデルで表現されることがあり、内的要因が大きく寄与していると推測される。台風の強度予報誤差に関するデータベースを構築した。その強度予報誤差は外的要因に関連した物理量(鉛直シアや最大発達強度など)で補正することで軽減できることを示し、英文誌SOLAから査読付き論文を出版した。
2: おおむね順調に進展している
本研究で使用する軸対称簡易台風強度モデル(簡易力学モデル、CHIPS)は、本課題の土台となった基盤研究C(課題番号25400461)で利用・改良されたもので、研究環境が整っている。統計力学モデルSHIPSは日本で開発をしている研究者と密に連絡を取り、数値実験結果を共有できた。
1.平成28年度に整理した異なる3つのモデルによる予報結果の比較を通じて、過去数年の事例について、台風強度が外的要因・内的要因によってどれほど影響するのか調べ、論文投稿する。平成28年度に整備したアンサンブル予報データを用いて、CHIPSによる過去数年の台風強度の再予報実験を行い、外的要因に伴う予報結果のばらつきを評価する。2.平成28年度に整備したアンサンブル予報データを用いて、SHIPSによる過去数年の台風強度の再予報実験を行い、外的要因に伴う予報結果のばらつきを評価する。また、外的要因の各要素について気候場・予報場を入れ替えることで感度実験なども行い、台風強度変化に重要な外的要因を抽出する。3.平成28年度に整備したアンサンブル予報データを用いて、非静力学モデルの再現性が良い事例・悪い事例などについて、台風強度の再予報実験を行い、外的要因に伴う予報結果のばらつきを評価する。
予定していた外国出張費用が見積時より少なかったため。HDDなどの消耗品購入を予定していたが、既存のディスクを使用することができたため。
研究成果の公表や情報収集をするため、外国出張を予定する。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件)
SOLA
巻: 12 ページ: 247-252
10.2151/sola.2016-049