研究実績の概要 |
降雪粒子の温度域別昇華成長量・雲粒捕捉成長量の他、初期氷晶数といった素過程を表すパラメータを追跡する、素過程追跡雲微物理スキームを開発し、気象庁非静力学モデル(JMA-NHM)に組み込んだ。冬季越後山脈上空に生じる山岳性降雪雲の他、2018年2月に札幌市で観測された降雪事例など、いくつかの事例について数100km四方の領域を1kmメッシュで覆って降雪再現実験を行い、霰状・樹枝・鼓等の降雪粒子を、観測結果と整合的な形で再現することに成功した。 他課題(16K01340, 17K18453)と連携した取り組みとして、素過程追跡雲微物理スキームを用いて、2017年3月27日那須町雪崩災害の降雪再現実験を行い、この 雪崩の強い背景要因となった弱層(雲粒付き雪粒子と雲粒付きの少ない雪粒子の互層構造)形成の再現に概ね成功するとともに、その降雪をもたらした上空の雲システムまで含めた雲―降雪―雪崩メカニズムの解明に資する知見を得るなど、当初の見込みを上回る革新的な成果を得た。 最終年度は、2018年冬季の大雪事例について再現実験を行い、日本海寒帯気団収束帯(JPCZ)にともなう強い降雪域では、密度の低い雪粒子が卓越する一方、JPCZの外側の筋状降雪雲による降雪域では、密度の高い霰粒子の寄与が比較的高まるという観測結果と整合的な結果を得た。梅雨期の沖縄で行われた他課題(18H01282)気球観測に参加し、観測と同期した気象予測実験を行いつつ、暖候期の降水雲に対する素過程追跡雲微物理スキームの適用性を吟味した。その結果、凍結雨滴を介した霰生成の寄与等を今後組み込むことで、適用性が増すことが分かった。また、素過程追跡雲微物理スキームの定式化、それを適用して実施した数値実験、および、気球観測と地上降雪粒子観測の結果を用いた検証結果をまとめ、論文として公表した。
|