研究課題/領域番号 |
16K05566
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
中川 広務 東北大学, 理学研究科, 助教 (30463772)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | Mars / water / isotopes / spectroscopy / heterodyne / SOFIA / MAVEN |
研究実績の概要 |
・東北大学ハワイ・ハレアカラ観測施設内T60望遠鏡に実装した赤外レーザヘテロダイン分光器を用いて火星HDO/H2O連続観測を実施するため, 装置を日本からリモート制御できるように改良を施した. 具体には局発光・波長較正システム・切替光学系等のリモート制御化を行った. また, それに伴いこれまでの液体窒素冷却から脱却するため, 冷凍機・コンプレッサを別経費にて購入し, 冷凍機冷却タイプを試作, ハワイにて試験観測を実施した. 明らかになった冷凍機の課題を解決することで, 下層大気中のHDO/H2O連続観測を行う準備が整った. ・成層圏望遠鏡SOFIA/EXESを用いてCH4, HDO/H2O観測を実施した. その結果, CH4の上限値を1-6ppbと高精度に求めることができ, 表層-大気間のやりとりに制約を与えることができた. 成果を学術雑誌に投稿した(Aoki et al., submitted to A&A).HDO/H2Oデータ解析も平行して進めている. ・米火星探査衛星MAVENを用いて, 下層ー上層大気結合に重要な役割を担う小規模重力波の特徴を調べた. その結果, 下層大気中で励起された重力波が下部熱圏高度130kmまで到達できる可能性を示した. これに伴って水などの物質やエネルギーが下層大気から上層大気に受け渡されることを示唆する. 成果を学術雑誌に投稿した(Nakagawa et al., submitted to GRL). ・無事に火星軌道投入に成功した欧州火星探査衛星TGOと, MAVEN, 地上観測とを連携する準備を推進した. TGO搭載NOMADチーム会合に参画, science topicsの住み分け議論などを進めた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
・下層大気中のHDO/H2O同位体の連続モニタのため, 自身が開発した赤外レーザヘテロダイン分光器のリモート制御化を目的として, 冷凍機・コンプレッサを購入, 検出器マウント・デュワ・窓材等を設計・製作した. 国内での動作試験後, 東北大ハワイ・ハレアカラ観測施設の60cm望遠鏡に持ち込み, 実装・試験観測を実施した. 冷凍機不具合により充分なSNRが得られなかったため火星本格観測に到達できなかったものの, 局発光・波長較正システム・切替光学系等のリモート制御化に成功し, 日本からのリモート運用が可能となった. 冷凍機不具合の解決策も既に目処が立っており次年度での観測が期待できる. ・自身の独自望遠鏡・装置による観測・MAVEN観測に加えて, 関連する地上・飛翔体観測とデータ解析を実施することができ, 表層-大気間のやりとり, そして下層と上層の結合過程について理解を深めることができ, 投稿論文にまとめたことで成果拡充につながった. TGOは順調に火星軌道投入に成功し, 今年末からの観測開始を予定している. MAVENで得られるD/H観測データは導出精度・較正方法について装置PIチーム内でまだ議論が続いている.
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今後の研究の推進方策 |
・リモート運用の準備が整ったため, 冷凍機改修後にハワイでの火星HDO/H2O連続観測に移行する. 冷凍機は, 一回り大きなデュワを再設計し, マルチシートなどを多用することで課題を解決する. 来年度の火星観測好機に向けて, 今年後期は朝方3-4時間火星観測が可能であり, 視直径が小さいながらも相対速度が最大16km/sになる観測好機1-3月において, T60に再搭載し観測を行えるように前期に改修を実施, 準備を進める. ・SOFIA観測では, メタンに引き続きHDO/H2O同位体データを解析することで, 下層大気中のHDO/H2O全球分布の変動を明らかにする. 同季節に観測することができたALMAデータと組み合わせて, HDOの3次元構造とHDO/H2O同位体の関係性などを明らかにしていく. ALMAデータ解析から, 物質の鉛直輸送に重要な中間圏風速場・温度場の解明を行う. ・MAVENデータを引き続き解析することで, 明らかになった重力波の上方伝搬と, それに伴って水や背景大気成分がどのように鉛直輸送されているのかを理解する. PIチームが超高層大気中のD/H時空間変動に関する論文を準備中であり(Clarke et al., preparing), 本研究ではD/H時空間変動と重力波による下層からの物質輸送との関係性を明らかにしていく. 重力波が分解可能な高空間分解能MGCMを用いて観測データの解釈を行う. ・TGOが今年末に観測を開始する. SWT他定期会合に参加し, PIチームと議論を交わしながらデータ解析・地上観測連携の準備を進める.
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次年度使用額が生じた理由 |
明純技術支援へ依頼した冷凍機デュワ設計・製作費等の事前見積額と実費との僅かな相違, 光学消耗品の事前見積もり額と実費とのわずかな相違によるもので, 次年度使用額が30円となった.
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次年度使用額の使用計画 |
少額ではあるが, 物品費(光学消耗品等)に充填する.
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