研究課題/領域番号 |
16K05581
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
臼井 朗 高知大学, 海洋コア総合研究センター, 特任教授 (20356570)
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研究分担者 |
鈴木 庸平 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (00359168)
高橋 嘉夫 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (10304396)
柏原 輝彦 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 海底資源研究開発センター, 研究員 (70611515)
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研究期間 (年度) |
2016-10-21 – 2019-03-31
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キーワード | 海底マンガン鉱床 / レアメタル / マンガンクラスト / マンガン団塊 / 古海洋環境 / 海山 / 成長速度 / 物質循環 |
研究実績の概要 |
海底マンガン鉱床は長い地質時代を通じて極めて遅い成長速度にて成長する,新生代の海洋に特有の化学堆積起源の酸化物鉱床であると理解されているが,地球科学的研究の事例が少ない。この研究では現場データとその場で生成したサンプルの両方を同時に入手できる優位性を活かして,広域スケールの記載研究から分子レベルの吸着反応の素過程解明まで,成因に迫る研究成果を生み出している。 この研究課題と同時に進行中の,内閣府戦略的イノベーションプログラム「海のジパング計画」では海洋研究開発機構,産業技術総合研究所との連携により,共同研究航海,共著論文の発表,現場試料の集中的共同分析などを実施している。昨年度5月のかいれい-かいこう航海では,房総沖の拓洋第3海山で厚いマンガンクラストが発見され大きな話題となった。このサンプルなどを対象として,1)現場環境(水深や堆積・物理化学環境など)と生成する現世沈殿物との対応が可能となり,2)複数の年代測定による年代モデルに基づく,時間的な組成・組織変動の時間変化の対応,3)微細なスケールの成長構造,吸着構造解明などのサブテーマの研究をすすめた。鉱床形成の現場を観察するために,各研究組織から,それぞれ研究者や学生などが船上調査研究に直接参加することができ,現場での産状,物理化学的,地質学的環境を把握することができ,現場データと室内実験結果との融合が研究進展の大きな原動力となった。 これらの研究の結果,以下のような結果が得られた。放射光分光分析によるナノレベルでのレアメタルの鉄マンガン鉱物への吸着構造が明らかになり,現世沈殿物は海水中の金属の化学・鉱物形態との間に強い関連があり,鉄マンガン酸化物は普通の海水中で,ナノサイズの粒子として浮遊しつつ,溶存金属との間に強い吸着平衡を示すこと,などが推定された。成果は学術論文,学会発表,書籍,記事やメディアに発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題が採択された時期に,SIP(戦略的イノベーションプログラム)課題が発足し,大型の共同研究が開始されたため,現場での共同研究,研究交流などが活発化し,本来の学際的,先進的研究となったと自負している。 他大学・他機関・他国との交流,情報交換などが活発化し,特に現場海洋での共同研究航海,分担分析,学会等での共同発表,共著論文の発表などが増加した。 具体的な研究成果として,3つのサブテーマにあわせて,1)モデル海山における水深方向の現世沈殿物(表層)の化学組成との強い相関,2)放射化学的,古地磁気学的,化石鑑定等に基づく年代モデルの構築,3)吸着実験,放射光化学分析などに基づいて,ナノレベルまでの分子構造,吸着構造などに関わるモデル構築,などが達成できた。 これらの成果は,学術論文や講演などにとどまらず,ポスター発表のほか,マスメディアにも折に触れて他取り上げられた。 以上のことから,研究は概ね順調以上に進展している,と同時に,他の研究課題と連携した課題の研究進展が認められ,多様な研究成果が認められたと判定した。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度のとりまとめの時期にあたり,共同研究者との連携に加えて,機関の間での共同研究をさらに促進する。例えば,本件とは別の予算で計画されている,北西太平洋の海山域のマンガンクラストの研究航海(JAMSTECかいれいーかいこう)に全機関からの研究者が参加して共同で調査し,得られた試料とデータの解析,分析を分担して進める。最終目標である統一的成因モデルの構築に向けて,1)鉱物への選択的濃集のメカニズム,2)広域的,地域的な組成変動の原因,3)海洋変遷史とクラストの微細層序の各々の研究テーマについて、事例研究を積み重ねる。それぞれ,JAMSTECによる室内実験と現場実験による有用元素濃集と化学形態の解明,水深による,或いは温度,物理化学条件などによる変動要因の特定,年代モデルの構築と成長史と濃度・成長速度変化などを解明していく。さらにこれらの科学的成果を現場の資源探査,経済性評価などに応用可能な成果発信を目指し,現場調査と室内解析の融合による成因への貢献をめざす。 これらの生成機構に関わる地球科学的知見は,近隣に位置する我が国のコバルトリッチクラスト鉱床の探査,資源評価,調査技術開発などの効率的,高信頼性の基礎データを提供することになり,大きな波及効果を与える。
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