本研究の目的は,付加体中に含まれる海洋地殻の断片である苦鉄質岩の地球科学的特徴及び形成年代を明らかにすることで,「中生代の古太平洋地域でいつどのような海底火成活動が起き,それがいつどのように海溝域で沈み込みこんだか」という海洋地殻の進化過程を解明することである. 研究3年目となる2018年度(最終年度)は,三重県志摩半島鳥羽地域に分布する御荷鉾帯の苦鉄質岩の全岩化学分析と薄片による検鏡を行った.全岩化学分析は,2年目に主要な試料について実施したが,不足分が認識できたため,データを追加する目的と,最初の分析値の正確性の検証という目的で,再度分析を行った. その結果,最初の分析結果値は妥当であることが確かめられた.また,得られた分析値を概観すると,その組成は複雑・多様で,御荷鉾緑色岩類の形成場の推定には,当初考えられたような単なる海台としてよいか,詳細に検討する必要がある事が分かった.また,苦鉄質岩の検鏡結果については,鉱物組成から幾つかのグループに分けられることが分かった. 本研究では,志摩半島と関東山地を対象にしたが,両者が同じ形成場,また付加年代を示しているのかを,よく検討する必要があることも分かった. 御荷鉾帯の岩石の年代については,これまで報告例が極めて少なく,昨年まで行った一連の研究で,関東山地と志摩半島の御荷鉾緑色岩類の形成時期は同じことは分かったが,隣り合う秩父帯北帯との分布の関係,秩父帯北帯の砂岩の年代などを考慮すると,志摩半島と関東山地では,テクトニクスが異なる可能性が得られたことも,大きな成果である.
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