球体化防御姿勢は,異なるボディープランの節足動物で繰り返し採用されてきた効果的な防御手段である.その成立には,外骨格上の凹凸を過不足なく咬合することが必要であるが,このような完成形をあらかじめ見越した形態形成は不可能である.では,どうして繰り返し獲得できたのか,この進化形態学的に興味深い問題について形態学的な観点から理解を深めることが本研究の目的である. 最終年度の完成予定であった化石三葉虫の微細構造3D復元は未完成となったが,2Dでの検討結果を得たうえで以前得た現生節足動物の結果と比較検討を行い以下の結果をまとめた. 化石三葉虫,現生甲殻類ハマダンゴムシ,現生多足類ヤマトタマヤスデのボディープランが大きく異なる三者において共通する特徴を見出した.その特徴は,骨格形態上で咬合関係となる領域が側方突出部に限定されること,さらにその咬合する対応関係にある凹部と凸部それぞれで感覚器官が特有の分布様式となることである.感覚器官の分布様式については,側方突出部その物の凸部では輪郭形状に則る配列になり,骨格裏側に位置する凹部では高密度の一様分布となる.つまり球体化を成立させるためには,異なるボディープラン間で共有する特徴にもとづいて,球体化の成立に必要な形態的特徴を産み出すことが求められる. 動物の形態形成において,先端部や輪郭の位置決定には機械受容器の発現が足がかりとなっていることが発生遺伝学的に明らかになっている.また,咬合する凹凸部位は脱皮時の外骨格の硬化タイミングの異時性による軟/硬関係と対応する.両特徴の獲得を生物進化のタイミングと対応させると,機械受容器発現の獲得は後生動物の共有派生形質であり,脱皮の獲得は脱皮動物下界の共有派生形質であることが知られており,節足動物の上位分類階級の根本的な相同形質を異なるボディープランに組み込んで成立していると結論づけられた.
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