研究課題/領域番号 |
16K05589
|
研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
入月 俊明 島根大学, 総合理工学研究科, 教授 (60262937)
|
研究分担者 |
瀬戸 浩二 島根大学, エスチュアリー研究センター, 准教授 (60252897)
山田 桂 信州大学, 学術研究院理学系, 准教授 (80402098)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 完新世 / 対馬暖流 / 貝形虫 / 微量元素分析 |
研究実績の概要 |
今年度は,まず昨年度長崎県対馬市の舟志湾から採取した約3 mのコアについて種々の分析を行った.14C年代測定の結果,コア最下部の年代は約3000年前であった.帯磁率測定の結果,コア下部では値が低く,約650年前に値が急増しコア最上部まで高い値を維持した.CNS元素分析の結果,約650年前の層準を境にTOC濃度とTS濃度が減少した.貝形虫分析の結果,約90種が産出し,主な種は内湾中央部のやや深い泥底に優占するKrithe japonicaで,全層準を通じて多産した.コア下部では湾央部泥底種が付随し,コア上部へ向け閉鎖的内湾奥泥底種が付随するようになった.これは相対的海水準の低下により,湾が閉鎖的になったことを示唆する.K. japonicaの殻を用いた微量元素分析の結果,対馬暖流の水温変動に対応する可能性が高いMg/Ca比の変動が認められた.また,長崎県壱岐島から採取したボーリングコアについて,14C年代測定,貝形虫の群集解析,粒度分析,CNS元素分析を行った.これらの結果に基づくと,約9000-8200年前では低塩分のエスチュアリー環境,約8200-7700年前では閉鎖的内湾環境,約7700-3800年前では湾が開放的になり,対馬暖流の影響が強化され,約3500 年前では酸化的な沿岸砂底環境に変化したことが明らかになった.さらに,福井県小浜市小浜湾において,約3 mのコア試料を湾西部と湾東部からそれぞれ1本採取した.コア試料は半割し,写真撮影,土色測定および堆積相の記載を行った.その後,14C年代測定,貝形虫分析,粒度分析,CNS元素分析,帯磁率測定を行い,一部結果が出ている.このように,完新世における相対的海水準変動と対馬暖流の流入との関係が解明されつつある.他にも上記の研究結果との対比のため,近隣の海域から得られたコア試料に関する研究成果をまとめ学術雑誌に公表した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
隠岐諸島で採取された複数のボーリングコアの分析はほぼ終了し,8月末にアメリカで行われた貝形虫の国際会議(International Symposium on Ostracoda)で,成果を発表した.その結果,ポスター賞を獲得することができた.現在,この成果を学術論文としてまとめている.対馬で採取したコアについては,一部追加の微量元素分析を行う必要があるが,その他の分析結果は出揃い,6月の日本古生物学会で発表するとともに,学術論文としてまとめている.また,壱岐島で採取された2本のボーリングコアのうち,1本はすでに分析が終了し,成果は幾つかの学会で発表した.現在,2本目のコアの分析に着手している.小浜湾で採取されたコアについては,年代測定,帯磁率測定が終了し,今年度その他の分析を完了させる予定である.さらに,上記の主な結果と対比できる瀬戸内海,中海,宍道湖などの近隣水域からのコア分析も順調に進み,幾つかに関しては,論文や学会で公表した. このように,総合的には概ね順調に進んでいると判断される.
|
今後の研究の推進方策 |
今後については,まず,対馬で採取されたコアから多産した貝形虫種の K. japonicaを用いた予察的な殻の微量元素分析の結果により,対馬暖流の古水温変動を復元できる可能性が高まったので,対馬のコアの試料数や層準を増やし,高密度な分析を行う.また,同様にこの種が多産し,すでに貝形虫群集解析が終了し,論文を公表した青森県陸奥湾のコアについても貝形虫殻の微量元素分析を進め,既存研究と対比してこの分析結果の妥当性を検討したい.これらの成果により,沿岸域における100年スケールの対馬暖流の水温変動を復元する予定である.また,対馬のコアについては,新たに花粉分析も行う予定である.これは当時の陸域と海域における気候変動の相互関係を検討するためであり,同じコアを用いて花粉と貝形虫の分析を行った研究はほとんどなく,新たな研究成果が得られる可能性が高い.次に,壱岐島で採取された2本目のコア,及び小浜湾で採取された2本のコアを対象に,引き続き貝形虫分析,粒度分析,CNS元素分析などを進め,両海域における環境の時間空間的変化を復元する.さらに,対馬暖流の末端部にあたる東北地方太平洋沿岸において, マッケラス柱状採泥器などを使用し,3 m程度のコア試料とエクマンバージ式採泥器による表層堆積物試料の採取を行う予定である.このコアに関して,コア記載,土色測定,帯磁率測定,年代測定を行い,分析試料採取,その後の真空凍結乾燥を行ったのち,貝形虫分析,粒度分析,CNS元素分析などを行う.以上の成果を年度内にまとめ,日本古生物学会,汽水域研究会などの関連学会で発表を行う.また,国内外の学術雑誌への投稿を行う.これらの分析結果に基づき,日本沿岸域における対馬暖流の影響に関連した環境変遷を高時間分解能で復元し,当初の研究目的を果たす.
|
次年度使用額が生じた理由 |
理由:次年度使用額が62857円分生じた理由であるが,予定していた14C年代測定費用がこの額よりも若干高かったため,次年度に繰り越すことにした. 使用計画:今年度の14C年代測定費に充てる予定である.
|