研究課題/領域番号 |
16K05591
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
奈良 正和 高知大学, 教育研究部自然科学系理工学部門, 教授 (90314947)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 生痕学 / 古生態学 / 堆積地質学 / 古生物学 / 古環境学 |
研究実績の概要 |
2020年度は本研究の集大成として,ブラジル共和国で10月に予定されていた生痕学に関する国際学会ICHNIA2020での口頭発表が予定されていた.しかし,前年度より世界的に猛威を振るっていたCOVID-19の影響により,5月下旬になって急遽延期が発表された.そこで,国内調査の充実も考えたが,所属先の内規によって同病対策のための出張禁止措置が長くつづき,十分な野外調査活動が行えなかった. この様な中でも,僅かな出張禁止解除時期を縫って,和歌山県南西部に分布する田辺層群の未調査層準において調査を行った.その結果,すでに本研究で明らかとし,国際学会の口頭講演等で公表してきた背弧拡大期の前弧古生態系の特徴を説明する仮説を強く支持するデータが得られた.また,三崎層群の野外調査とドローン撮影による高精細空中写真を用いた地層形成過程の解析から,複数のストーム砂岩の形成過程に関してある種の規則性があることを新たに見出した.この発見は,今後,ストーム砂岩が記録する古生態情報の復元に新展開をもたらす可能性がある. 成果の公表においては,田辺,三崎両層群に産するScolicia属生痕化石の新種を記載するとともに,同属をはじめとした埋在ウニ類の古生態学的解釈に関しての新知見を提供した.また,ギリシアの更新統から魚類の摂食痕Piscichnusを記載し,従来の研究に残されていた同生痕属の分類学的手続きの瑕疵を正した.さらには,中新世西南日本弧堆積物との比較対象であった台湾の大寮層から,国際共同研究により新属新種の生痕化石Pennichnus formosaeを記載し,それがオニイソメ類のつくる構造である可能性を指摘した.この論文は,国際的に関心を呼び,Nature AsiaやNational Geographic誌(国際版,国内版とも)のウェブサイトほか国内外のウェブサイト多数で紹介された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では,日本海拡大期のきわめて活発な古環境変動の記録庫である三崎層群,久万層群,田辺層群,熊野層群,備北層群,対州層群,唐鐘累層といった西南日本弧中新統のほか,近い時代,あるいは,ほぼ同時代のアジア大陸縁辺の安定な場で形成された沖縄県の八重山層群や台湾の大寮層などを比較対象として,野外調査を主とした研究を行ってきた.その成果の一部は,複数のIF付きの国際誌論文,国内誌論文のほか,国際学会での口頭講演を含む多数の学会講演として公開されている.とくに,一部の国内講演は,注目すべきものとしてセッションの「ハイライト講演」にも指定された.また,日本地質学会や日本堆積学会の行事として野外巡検を行い,実際に露頭を観察しながら,一線の研究者らと意見を交換し,研究の方向や成果の妥当性を確認する機会も得られている. この様に,総じて十分ともいえる成果を上げてきている.しかし,上述のように,COVID-19の流行という外的な要因ではあるが,本研究公表にあたってもっとも適当な国際学会ICHNIA2020の延期により,そこでの公表と意見交換の機会が失われてしまった.また,同じ原因で最終年度における国内での補完的調査の機会も失われてしまった.こうした点が,「やや遅れている」とした評価の理由である.
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今後の研究の推進方策 |
本来であれば,2020年度が本研究課題の最終年度であった.しかし,上述の通り,昨年度に海外出張や野外調査を行うことができなかったため,一部を次年度に繰り越している.そこで今後の方針を簡潔に述べる. 今後もCOVID-19の流行状況によっては十分な野外調査が行えない可能性もあるが,所属先の出張制限にかかることが少ない県内の地層群(四十寺山層や三崎層群など)を対象とした調査を行い,補完的データの採取に努める.他にも,すでに得られた多くのデータの解析に注力し,本研究課題の成果をまとめた論文をIF付き国際誌に投稿することを目標とする.
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は本研究の集大成として,ブラジル共和国で10月に予定されていた生痕学に関する国際学会ICHNIA2020での口頭発表が予定されていた.しかし,前年度より世界的に猛威を振るっていたCOVID-19の影響により,5月下旬になって急遽延期が発表され海外出張が中止となった.そこで,次善の策として国内調査の充実も考えたが,所属先の内規によって同病対策のための出張禁止措置が長くつづき,十分な野外調査活動が行えなかったことが理由である.
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