研究課題
今年度は北部ベトナムに分布するオルドビス系~シルル系,デボン系と三畳系で地質調査を実施した.コートー諸島(Co To Islands)でのシルル系の調査では,コートー層(Co To Fm)のタービダイトから多くの筆石化石を採取し,下部シルル系のS. turriculatus帯とO. spiralis帯を確認することができた.ハーザン省(Ha Giang Prov)に分布する上部デボン系のトクタット層(Toc Tat Fm)の研究では,主に2つのセクションで調査を進めた結果,フラスニアン/ファメニアン境界を確認する事ができ,この境界付近で生じた大量絶滅としてよく知られている下部・上部ケルワッサー事変をコノドント生層序と安定炭素同位体比層序から特定することができた.また,シーファイセクション(Si Phai Sec)で,テンタキュリトイドの絶滅パターンについて検討した結果,下部ケルワッサー事変に先駆けてテンタキュリトイドの産出量は,著しく減少するものの,種数の顕著な減少はなく,上部ケルワッサー事変以降もHomoctenusなどの複数の種が産出することが確認できた.また,メオバックセクション(Meo Vac Sec)では,ケルワッサー事変層付近に有機物に富む黒色頁岩が挟まれていたため,化学分析などを進めた結果,これらの頁岩は嫌気的な環境下で堆積したことが明らかになり,世界各地のケルワッサー事変層から報告されている汎世界的な海洋無酸素事変を記録していることが分かった.三畳系の調査は,北部ベトナム南部に分布するソイバン層(Suoi Bang Fm)で実施した.その結果,上部三畳系のノーリアン階を主体とするソイバン層の最下部からカーニアン期を示すアンモノイドや二枚貝を採取することができ,カーニアン/ノーリアン境界を挟む可能性があることが明らかになった.
2: おおむね順調に進展している
予定していた地質調査を概ね実施することができ,化石および岩石試料の採取やそれらの分析を無事に進めることができた.しかし,下部三畳系の調査では,化石産地までの道路が崩れていたため,十分な調査を行うことができなかった.その一方で,ソンラ省での上部三畳系の調査では,工事に伴って,多くのアンモノイドや二枚貝などが産出していたため,再調査を行い,この地域での化石試料の採取を最優先した.その結果,露頭が構造物で被覆される前に,数百点以上の二枚貝やアンモノイド,巻貝に加えて,植物化石や脊椎動物の骨片などを得ることができた.デボン系の研究については,極めて順調に進んでおり,古生物学会などで上部デボン系のコノドント生層序や堆積環境,安定炭素同位体比層序,デボン紀後期の大量絶滅や海洋無酸素事変などに関する講演を行い,研究成果の一部についてはすでに国内外の雑誌に投稿済である.また,北部ベトナム南部に分布する上部三畳系の二枚貝やアンモノイドから推定される地質年代と愛媛県の田穂石灰岩から産出した下部三畳系のコノドント化石の記載と国際対比に関連する論文が英文学術誌に受理された.
本年度は,これまでに得た化石試料の剖出や種の同定と岩石試料の分析などに時間を費やし,学会講演や国内外の学術誌などで積極的に成果報告を行う予定.また,野外調査については,追加試料の採取やデータのチェックを主な目的とするが,これまでの北部ベトナムでの調査やデータの解析を通じて新たな研究テーマや予想をしていなかった発見などがあったため,これらについても予察的な調査や分析を進める.安定炭素同位体比や化学分析は,高知コアセンターや東北大学で夏ごろに行う予定.学会講演は,7月にパリで開催される第5回国際古生物学会議(IPC5)でインドシナ半島の中生界とその生物相に関連したシンポジウムを企画し,ここでベトナム三畳系の研究成果について報告を行う他,日本古生物学会などでも講演を予定している.学術論文については,上部デボン系トクタット層のコノドント生層序や堆積環境,安定炭素同位体比層序などの研究成果について最優先で公表する.コートー層から産出した前期シルル紀の筆石化石については,イギリス人の研究者と共に成果報告を行う予定でいる.
3月後半のベトナム調査で採集した化石および岩石試料の輸出手続きが,滞在期間中に終わらなかったため,試料の発送を次回のベトナム訪問時(2018年5月)に変更した.そのため,化石および岩石試料の輸出費やそれに伴うベトナム人協力者への謝金を次年度に繰り越した.
すべて 2018 2017 その他
すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 7件、 査読あり 8件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (6件)
Geological Magazine
巻: 155 ページ: 1442-1448
10.1017/S0016756817000310
Paleontological Research
巻: 22 ページ: 239-264
巻: 155 ページ: 1742~1760
10.1017/S0016756817000693
巻: 22 ページ: 75-90
10.2517/2017PR011.
Paleontological Research.
巻: in press ページ: in press
10.2517/2017PR023.
Paleontological Research, Supplement
Bull. Natl. Mus. Nat. Sci.
巻: 43 ページ: 1-10
Journal of the Sedimentological Society of Japan
巻: 76 ページ: 2