本課題は,X線マイクロCTによる放散虫(ポリキスティナ)殻の3次元形態データの古生物学的記載における有用性を示し,新たな放散虫研究ツールとしての定着を目指すものである.課題の最終年度は主に下記に記す3項目を実施した. 1.現生放散虫殻の形質記載:放散虫殻の有する微細構造の検討には,殻が破損していない現生の個体が適しており,成長をたどることで殻形成の順序がわかることがある.日本海の現生放散虫について研究初年度から観察を進めていたが,そのうちSpumellaria目の1種について殻の有する全ての形質を記載した.さらに複数個体の形態計測に基づいて,殻成長の過程を解明した.また採取時の水質情報から,この種に適した生息環境が明らかになった.得られた新知見は投稿論文としてまとめ,専門誌に公表した. 2.3次元化処理フローの再検討:X線マイクロCTによる放散虫殻のスキャニング技術と作業フローは既に確立し,また,スキャン失敗事例の原因究明からスキャン成功率を格段に向上させていた.今年度は,これまでソフトウェアで自動的に3次元化していた処理フローを見直し,パラメーターをマニュアルで設定することで,より精細な結果を得ることが可能になった.これに従い,これまで取得されていたデータの再処理を実施した. 3.3次元化形状データの発展的検討:これまで本課題では,放散虫殻の微細構造を忠実にデジタルデータとして記録することに注力してきた.発展的課題として,3次元データを基にした形状解析,特に変形に対する耐性を想定して,予察的検討を実施した.取得された3次元点群データをメッシュ化し,さらにボクセルモデルにすることで有限要素法による構造解析を可能にした.
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