研究実績の概要 |
日本の後期新生代層に含まれ「第三紀温暖要素」と呼ばれてきた台湾固有属(コウヨウザン属Cunninghamiaおよびタイワンスギ属Taiwania)の成立史を解明し、東アジアの植生形成において琉球列島が果たした役割を明らかにするのが本研究の目的である。これらの“温暖要素”が「日本列島から琉球列島を経由して分布を南に広げた」という仮説を検証するため、陸橋が成立したと考えられる前期更新世以前に日本列島から産出する2属の化石に注目し、(1)それらが現生種に同定できるか、(2)現生種と同様の環境に生育したか、を検証課題とし研究に取り組んだ。 初年度からH29年度にかけては、九州各地の前期更新世ー鮮新世植物群の標本の分類学的解析と古気候解析のための群集全体の形態解析を進め、H30年度には、産総研地質標本館などにおいて追加資料の解析を行うとともに、各化石群集から産出した化石標本のクチクラプレパラートを作成し、分類学的研究を進めた。その結果、後期鮮新世から前期更新世にかけて産出したコウヨウザン属化石はすべて台湾自生種に同定できた。さらにそれらの化石群集全体を葉縁解析法と呼ばれる古気温解析法により解析し、年平均気温が7.7-15.4°Cの範囲に含まれることを明らかにした。この値は、C. konishii (600-2,220m)の生育気温条件(9.7-19.5°C)の範囲にほぼ含まれ、これらが現生の群集と同じかより低い気温で生育した可能性を示した。以上のとおり課題を検証し作業仮説を証明することができた。すなわち、日本の後期新生代層から産出する台湾要素のうち、少なくともコウヨウザン属化石は、鮮新世以前の日本にもともと存在したもので、寒冷化とともに琉球列島などを通じて南に分布を広げたものである。 タイワンスギ属化石については分類学的な問題が提起され、今後の検討課題としてさらに研究を進める予定。
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