研究課題/領域番号 |
16K05605
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
石橋 秀巳 静岡大学, 理学部, 准教授 (70456854)
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研究分担者 |
奥村 聡 東北大学, 理学研究科, 助教 (40532213)
三井 雄太 静岡大学, 理学部, 助教 (80717950)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | マグマ / 富士火山 / 噴火様式 / 減圧結晶作用 / テクスチャー / レオロジー / 玄武岩 / 斜長石 |
研究実績の概要 |
玄武岩質マグマの噴火様式は,溶岩流の流出やストロンボリ式噴火などの穏やかなものが一般的であるが,稀に成層圏まで噴煙柱を上げる激しいプリニ―式噴火をおこす.富士火山における最新の噴火である1707年宝永噴火でも,玄武岩質プリニ―式噴火が発生したことが知られている.一般にプリニ―式噴火が発生するためには,マグマが火道浅部に至るまで脱ガスが抑制され,またマグマが破砕する必要がある.脱ガスの抑制と破砕はいずれも,低粘性の玄武岩質メルトではおこりにくいと考えられ,このため玄武岩質プリニ―式噴火の発生メカニズムは未だ十分明らかでない.ところで,同じプリニ―式噴火の噴出物を比較した場合,珪長質マグマではマイクロライトをほとんど含まないのに対し,玄武岩質マグマでは著しくマイクロライトに富む特徴がある.このようなマイクロライトは,マグマの火道上昇過程で発生する減圧結晶作用によって形成されたもので,その形成によってマグマの物性は著しく変化すると考えられる.本研究の目的は,天玄武岩質マグマの火道上昇過程における減圧結晶作用が,マグマの脱ガス・破砕と噴火ダイナミクスに及ぼす影響を明らかにすることを目的とする. 研究初年度は,玄武岩質プリニ―式噴火の噴出物である富士火山1707年宝永噴火スコリアの岩石組織解析・鉱物化学分析を行った.その結果,減圧結晶作用によって形成されたマイクロライト量が,マグマの液体-固体遷移がおこる結晶量に相当するほど高いことが分かった.また,マグマの熱力学的結晶作用計算プログラムであるMELTSを用いた,宝永噴火の玄武岩質メルトの等圧減圧結晶作用シミュレーションも行った.その結果,温度が噴火様式を決める重要な要素であり,低温マグマほど,火道上昇過程での脱ガス抑制・破砕がおこりやすく,結果として爆発的噴火をおこしやすいことが示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画通り,本年度は,玄武岩質プリニ―式噴火の噴出物である富士火山1707年宝永噴火スコリアの岩石組織解析・鉱物化学分析を行った.その結果,火道上昇過程において,液体-固体遷移の臨界結晶量に相当する量のマイクロライトが形成していたことがわかっただけでなく,噴火の休止と終息を識別するための手がかりが得られた.また,MELTSを用いた玄武岩質マグマの等温減圧結晶作用シミュレーションの結果,結晶作用のカイネティックな遅れを無視できる場合,ある化学組成を有するメルトが火道上昇する際におこる減圧結晶作用の程度が,初期メルト含水量によらず,温度のみによって決まることがわかり,富士火山において玄武岩質マグマの噴火様式の多様性を生じるメカニズムを考えるうえで重要な手がかりを得た.このように,研究初年度としてはまずまずの成果が得られたので,進捗状況は概ね順調であると評価した.
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今後の研究の推進方策 |
2016年度の実施内容を論文にまとめて投稿する. 2017年度には,富士山宝永噴火のプリニ―式噴火のスコリアについて更なる検討を進め,火道中で破砕した時点でのマグマの状態について探っていく.第一に,このスコリア中の気泡組織とガス浸透率について調べる.この結果からは,破砕時のマグマの脱ガスプロセスに関する情報を得られると期待できる.第二に,宝永噴火スコリアの高温微変形実験を行い,破砕時におけるマグマの粘性率を定量的に決定する.この結果からは,破砕時におけるマグマの“硬さ”について情報が得られるだろう.第三に,斜長石マイクロライトの化学組成頻度を定量的に分析する.減圧結晶作用の際,晶出する斜長石マイクロライトのCa量は,圧力の減少とともに単調に変化することがMELTSシミュレーションから確認された.したがって,スコリア中に含まれる斜長石マイクロライトのCa量の体積頻度分布を明らかにできれば,減圧に伴うマイクロライト成長の深さ-量関係を知ることができると考えている. 一方で2017年度には,MELTSを用いた断熱減圧結晶作用シミュレーションを行い,より現実に近い断熱上昇過程での,玄武岩質マグマの減圧結晶作用のふるまいを検討する.
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