研究課題
苦鉄質マグマの噴火様式は,ストロンボリ式噴火等の穏やかなものが一般的であるが,成層圏まで噴煙柱を上げる激しいプリニー式噴火もおこすことがある.プリニー式噴火の発生には,マグマが火道浅部に至るまで脱ガスが抑制され,かつ破砕する必要がある.脱ガスの抑制と破砕はいずれも,低粘性の苦鉄質メルトではおこりにくく,このため玄武岩質プリニー式噴火の発生メカニズムは未だ理解不十分である.ところで,同じプリニー式噴火の噴出物を比較した場合,珪長質マグマではマイクロライトをほとんど含まないのに対し,苦鉄質マグマではマイクロライトに富む特徴がある.マイクロライトはマグマの火道上昇時におこる減圧結晶作用によって形成されたもので,これによってマグマの物性は著しく変化する.本研究の目的は,苦鉄質マグマの火道上昇時におこる減圧結晶作用が,マグマの脱ガス・破砕と噴火ダイナミクスに及ぼす影響を明らかにすることである.3か年計画の最終年となる今年度,伊豆大島1986年噴火のマグマを対象として,石基組織観察・鉱物化学分析と減圧結晶作用の熱力学シミュレーションを行った.その結果,ストロンボリ式噴火をおこしたAマグマはマイクロライトに乏しく,准プリニ―式噴火をおこしたBマグマはマイクロライトに富むことがわかった.気泡形状に注目すると,前者では界面が滑らかなであるのに対し,後者では凹凸に富む歪な界面であった.これは,後者ではマイクロライト形成によって噴火直前のマグマ粘性が急増したことを反映している.2つのマグマに含まれるマイクロライト量は,それぞれの推定噴火温度における減圧結晶作用の熱力学シミュレーション結果と整合的であり,苦鉄質マグマの噴火様式が温度に制御されるという本研究の仮説を裏付ける結果であった.また,マグマの脆性-粘性遷移がおこる深度が~200mより浅いことが示唆され,火道浅部過程の重要性が強調された.
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