研究課題/領域番号 |
16K05608
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
横山 正 広島大学, 総合科学研究科, 准教授 (60403101)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 間隙水 / 岩石 / 溶解 / 溶存元素 |
研究実績の概要 |
岩石間隙中で生じる反応-輸送現象は,間隙構造の制約を受けることで,バルク溶液中の現象とは異なる特徴を持つことが最近注目されている。本研究では,岩石内部の間隙水をさまざまな強さのガス圧で押し出して分析する「水押し出し法」を応用し,間隙径ごとに溶液を回収して溶存元素濃度を調べ,間隙中で起こる反応や輸送現象の速さやメカニズムを調べることを目的としている。 岩石の浸透性の研究で広く用いられているBerea砂岩(アメリカ)のコア試料を用いて,試料内部に水を流した後,水押し出し法によりさまざまな径の間隙(半径>0.013 mm~0.001 mm)から間隙水を回収し,溶存元素濃度を測定した。その結果,間隙径が減少するにつれて,元素濃度は増大傾向を示した。濃度の増大量は元素の種類によって異なり,Caでは約4倍,Siでは約1.4倍であった。このような濃度変化の原因を明らかにするために,間隙を屈曲した管と見なし,管の壁面の溶解速度と管内の水の流速に基づいて元素濃度を計算する反応-輸送モデルを作成した。その結果,間隙径が小さくなるにつれて濃度が増加することがモデル計算で再現できたが,計算から予測される濃度の増大量は実測値よりも大幅に大きいことが分かった。この結果は,岩石内部では異なる径の間隙同士が連結しており,低濃度の太い間隙中の水が細い間隙に流入することで細い間隙の濃度が下がり,逆に高濃度の細い間隙中の水が太い間隙に流入することで太い間隙中の濃度が上がる,ということが起きている可能性を示しており,岩石内部の反応-輸送現象の実態が明らかになりつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
岩石間隙中の溶存元素の濃度分布の研究は,これまでは主に数値シミュレーションによって行われていた。一方,実際の間隙中の濃度分布を知るうえで,実験的手法により間隙水を直接分析することは大変重要であるが,そのような研究は非常に少なかった。平成28年度の研究により,間隙水をさまざまな強さのガス圧で押し出し,間隙径ごとに回収して溶液組成を分析するという独自の「水押し出し法」が,間隙中の元素濃度の分布の実態を定量的に把握する上で大変有効な実験方法であることが示された。実験においては,間隙径が減少するにつれてCa, Mg, Na, Siなどの溶存元素濃度が増大傾向を示し,さらにその増大量は元素の種類によって異なることが明らかになった。平成28年度に予定していた実験手法の確立については,おおむね問題無い段階に至ったと考えている。上述の実験結果が得られる原因についても,少なくとも定性的には説明できる反応-輸送現象の理論モデルが作成できた。現時点ではまだモデル計算値と実測値には大きな食い違いがあるが,その原因の理解も進みつつあり,全体として順調に研究が進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
まずは,細い間隙中の溶存元素濃度が太い間隙よりも高くなる現象について,水押し出し法による実測値とモデル計算結果とで大きな食い違いが生じる原因を明らかにしたい。現時点では,食い違いの大きさを解析することによって,異なる径の間隙中の流れが合流して溶液が混合する度合いを評価できる可能性があると考えており,そのような解析を進めていく。食い違いの原因については,溶液の混合だけでなく,間隙の曲がりくねり具合(屈曲度)や間隙壁面の粗さ,鉱物の溶解・沈殿などの反応速度が,間隙径によって異なることが関係している可能性もあり,それらの影響をどのようにして実験的,もしくは理論的に評価するかの検討も進めていく。さらに,細い間隙において濃度が増大する割合が,溶存元素の種類によって異なるのはなぜか,という問題にも取り組みたい。この原因については,まだ目処がつくという段階には至っていないが,岩石内部の反応や輸送に関する重要な情報を有している可能性があり,さまざまな条件下での実験やモデル計算を通してその原因の理解を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
高額な実験消耗品の交換を次年度に回したことや,装置を導入する際に通常より安いキャンペーン期間を利用したこと,例年海外出張して参加している国際学会(Goldschmidt)が平成28年は日本で開催されたため旅費が安くついたことなどが重なり,次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度に行わなかった実験消耗品の交換が今後は毎年必要であり,また例年4回前後の国内外の学会参加(平成29年は8月に海外を予定),その他を含めて,適切な額として使用予定である。
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