研究課題/領域番号 |
16K05610
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
中村 大輔 岡山大学, 自然科学研究科, 准教授 (50378577)
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研究分担者 |
平島 崇男 京都大学, 理学研究科, 教授 (90181156)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | エクロジャイト / ザクロ石 / 単斜輝石 / 地質温度計 / 変成岩 / 温度圧力履歴 |
研究実績の概要 |
プレートの収斂帯では、しばしば高圧~超高圧変成作用を受けた岩石が産出する。そうした岩石の温度圧力履歴を解読することはプレート収斂帯の構造発達史等を解明する上で重要な束縛条件となる。そうした温度圧力履歴を解読するツールの一つとしてザクロ石-単斜輝石地質温度計があり、古くから提案・改良が行なわれてきている。しかし、そうした改良は主にザクロ石固溶体の持つ非理想性に焦点が当てられてきたが、単斜輝石固溶体が持つ非理想性はあまり注目されてきていないのが現状である。本研究課題では単斜輝石固溶体の非理想性に注目して、ザクロ石-単斜輝石地質温度計の新たなキャリブレーションを行なうことを第一目的としている。そこで、初年度は既存の高温高圧実験データをコンパイルして、新たなモデルの構築を行なった。また、チェコ共和国のボヘミア山塊のエクロジャイト(高温高圧変成岩)や中国東部蘇魯地域のエクロジャイトの履歴の解明も試みた。モデル構築では、合計600ペア程の実験データをコンパイルし、理想固溶体を仮定した暫定モデルを作成した上で、ザクロ石および単斜輝石固溶体の持つ非理想性を評価した。その結果、まずザクロ石固溶体には若干の非理想性があることが確認されたが、それが温度推定に与える影響は小さく、既存の固溶体モデルを使用しても問題ないと判断した。一方、単斜輝石固溶体はヒスイ輝石成分量の変化が温度推定に与える影響はほとんど見られないものの、Ca+Na含有量が減少する(フェロシライト・エンスタタイト成分量が増える)と、算出される温度が実際の温度より高くなる傾向があることが確認された。また、単斜輝石固溶体にもFe-Mg間の非理想性が若干あることも確認された。そのため、それらの単斜輝石固溶体の非理想性を考慮したモデルを再構築した。このモデルを天然のエクロジャイトに適用したところ、全体的な推定温度のバラつきが軽減された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ザクロ石-単斜輝石地質温度計について、その再構築を行い、おおむね順調に進んでいる。ただし、今回、コンパイルしたのは苦鉄質(玄武岩質)や泥岩質の系に限られており、超苦鉄質(カンラン岩質)系での実験を含んでいない。これは適用対象を玄武岩質のエクロジャイトに絞ったためであるが、やはり適用範囲を広げるため超苦鉄質な系の実験データも含めて、再度、コンパイルし統計処理を行なう必要があると判断する。また、得られたモデルの適用も現時点では限られているため、その有効性や適用した場合の意義については、まだ十分な議論がされていない。その一方で、今回、より明瞭になった結果は単斜輝石固溶体中のヒスイ輝石成分の影響の評価についてである。天然の岩石の観察結果では、ヒスイ輝石成分量が増えると推定温度が過剰に高くなってしまうケースがあることが指摘されてきている。これまでの温度計構築の研究ではヒスイ輝石成分量の多い実験データがほとんど用いられておらず、上記のような非理想性の存在の有無についてはよく分っていなかった。しかし、今回、コンパイルした実験結果では泥岩質系などのヒスイ輝石成分含有量の多い単斜輝石のデータも含んでいるが、上記のような傾向が全く見られなかった。これは単斜輝石固溶体では、Al-Fe間の非理想性の程度とAl-Mg間の非理想性の程度がほぼ同じであるという実験データと矛盾しない結果である。天然の岩石で観察された結果は、おそらく単斜輝石中へフェロシライト成分が過度に入ったことが原因と考えているが、これに関しては引き続き検証が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
現時点で、約600ペアの実験データをコンパイルしたが、これらをすべて最終的な統計処理に用いる訳ではない。それには、すべての実験データが平衡状態を達成しているか疑問が残ることと、単斜輝石中のFe3+量が不明な点が挙げられる。そこで、加熱時間が100時間以上の長時間の実験であり、且つグラファイトカプセルを用いて還元的な環境で実験を行なっているデータのみを用いることとした。また、これまでは超苦鉄質な系の実験を除外していたが、適用対象を広げることと、統計的な処理を行なうデータを増やすため、超苦鉄質な実験データも加えて、再度、キャリブレーションを行なう予定である。そして、新たに得られたモデルでも単斜輝石固溶体の非理想性が前記のモデルと同じ結果を与えるか否かの検証を行う。違う結果となるようであれば、やはり苦鉄質な岩石と超苦鉄質な岩石では分けて議論すべきかもしれないが、それらを包括的に説明できる新たなモデルの構築を目指す。また、得られた新たな地質温度計を天然の岩石のデータへ適用して、その地質学的意義を考察する。これまで分析を行なってきているチェコ共和国ボヘミア山塊のエクロジャイトや中国山東半島の蘇魯地域のエクロジャイト等のみならず、世界各地のエクロジャイトやザクロ石カンラン岩のデータを収集して、それらから得られる温度圧力条件を既存の推定値との違い等を議論していく。
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