南西インド洋海嶺のアトランティス・バンクにおいてIODP 第360次航海で掘削されたHole U1473Aから採取された斑れい岩類と,高知コア研究センターに保管してあったODP Hole 735Bのコア試料の一部について分析を行い,アトランティス・バンクの下部地殻の高温熱水変質の生成物の産状,組成,および生成条件を明らかにした。なかでも特筆すべき点は,黒雲母および黒雲母―緑泥石混合相が広範囲にわたって産出することを明らかにしたことである。詳細な組織の観察と化学分析に基づいて,それらのフィロ珪酸塩鉱物が角閃岩相の温度条件(700℃前後)でシリカとカリウムを含む水溶性流体と斑れい岩中のかんらん石および斜長石との反応によって生成したことと,そのような水溶性流体が下部地殻の剪断帯や割れ目に沿って浸透した珪長質含水メルトから派生したものである可能性が高いことを明らかにした。 前年度までに計画していた分析のほとんどを完了していたが,一部のデータをそろえるために予想以上の時間を要したため,事業期間を1年延長し,万全を期して成果をまとめることにした。 延長期間中には,主に電子線マイクロアナライザーと走査電子顕微鏡を用いて補足的な分析を行った。その結果,一部不確かさが残っていた黒雲母―緑泥石混合相の存在を確認し,化学組成のデータを増やすことができた。新しいデータを加えてコンピューターによる熱力学的解析をあらためて行ったところ,黒雲母―緑泥石混合相は黒雲母単独のケースよりも50~100℃ほど低温で形成されたことを明らかにすることができた。これらの分析結果に基づいて図表を作成し,共同研究者による原稿チェックを経て,国際学術誌上に論文を公表することができた。
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