研究課題
地震発生領域直下の下部地殻における延性剪断帯の発生・発達過程は,内陸地震の発生において本質的に重要である.本研究では,天然の変形岩試料の解析を通して,下部地殻上部での延性剪断帯の発生・発達過程の解明を目的としている.下部地殻条件で形成された延性剪断帯が卓越するノルウェー北部ロフォーテン諸島・ベステローデン諸島において地質調査と変形岩試料の採取を行った.採取された変形岩(主に斜長岩マイロナイト)に対して,SEM-EDS,WDS,EBSDなどを用いた構造地質学的・岩石学的解析を,大阪市立大学,京都大学,産業技術総合研究所などにおいて行った.その結果,斜長岩マイロナイトにおいては,動的再結晶ではなく破壊と吸水変成作用によって構成鉱物が細粒化し,その細粒鉱物集合体は粒界すべりにより変形したことが明らかとなった.さらに,鉱物集合体が粒界すべりによって変形する場合,一般には結晶定向配列を示さないとされるが,劈開や双晶が発達する斜長石の集合体においては粒界すべりによって結晶定向配列が発達することが明らかとなった(世界初).一部の斜長岩マイロナイトにおいては,地震に起因する動的破壊により形成されると考えられる粉砕作用の痕跡が認められた(下部地殻における粉砕岩の発見は世界初).粉砕作用は岩石の間隙率を上昇させるため,下部地殻における流体の流路となり得る.また,斜長石にしばしば認められる特徴的な組成累帯構造の成因として,高温斜長石の低温での相分離という説が提案されており,この相分離は粒径減少を伴うことが期待されるため,下部地殻における主要な粒径減少機構である可能性が指摘されている.しかし,本研究の解析結果はこの説を支持せず,等温減圧による二段階成長であることを明らかにした.以上より,下部地殻の延性剪断帯の発生・発達過程においては,動的破壊が重要であることが明らかとなった.
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