研究課題
本研究費助成により導入できた冷陰極型カソードルミネッセンス(CL)装置「Reliotron」を用いて、各種鉱物を対象に低温度下でのルミネッセンス発現挙動をカラーCL画像として記録できた。その中で、アクチベータ濃度が高く通常なら濃度消光を起こし発光しなくなる鉱物(例えば、含Mn炭酸塩鉱物)について、実際に液体窒素温度に近い低温度下でCL強度の著しい増感効果を確認し、この現象はアクチベータに作用する励起電子の移動距離が温度に依存していることが推察された。一方、石英などアクチベーターを有せず、構造欠陥による発光中心がルミネッセンス発現の主因になっているものは、低温度下での発光の挙動に試料差があることが判明した。このことは、鉱物に記録されている,生成後の変成履歴(主に熱履歴)や交代作用による構造欠陥の解消過程の違いを反映している可能性を示唆した。Reliotronを用いた低温度下でのCL観察結果を基に、熱陰極型SEM-CL装置を用い試料温度を制御して、これら鉱物の発光スペクトルを測定した。石英、ジルコン、エンスタタイトの結果を波形分離解析し、各発光成分を帰属するとともに、それらの成分の試料温度効果を定量的に評価した。成果の一部は、国内外の学会ならびに国際専門誌に公表した。特に、風成塵(黄砂など)中の微小石英粒子をCLにより評価し、得られた成果を統計学的手法により解析し、起源地推定やアジアモンスーンの経路を考察した論文はIFの高い雑誌(Geology)に掲載された。石英粒子を低温度下においてCL観察を行うことにより、発光強度が室温下での数千倍に増感され、極めて低い照射電流下(0.05 nA)で測定対象の石英粒子の検索を可能にした。これにより数ミクロンほどの微量石英粒子を抽出でき、検索のための照射履歴を無視できるほど小さくなるため、SEM-CLによる精度の高いスペクトル測定(2-5 nA)を可能にした。
2: おおむね順調に進展している
Reliotronを用いた低温度下でのCL観察結果を基に、熱陰極型SEM-CL装置を用い試料温度を制御して、これら鉱物の発光スペクトルを測定している。この場合、測定試料の形体や試料固定法の違いにより(研磨薄片やディスク試料など)、試料温度を変化させたとき試料自身や試料ホルダーの熱収縮が異なるなり、電子線のフォーカスが大きくずれる問題が認められた。実際には、試料温度を変化させるごとに、電子光学系を再調整してスペクトル測定をせざるを得ず、試料をホルダーへ固定する方法(機械的な固定ではなく接着剤を使用)や温度制御系の改良に取り組んでいる。また、石英などのように、室温と低温度下(液体窒素温度)でCLスペクトル強度が著しく異なるものは、発光強度を計測する光電子増倍管のダイナミックレンジを越えるため、測定値の定量的な取扱が困難となる。したがって、CL発光強度の異なるワーキングスタンダード3試料を準備し、強度を異にする三つの領域で測定し、ワーキングスタンダードの強度で規格化し定量的な評価を検証している。この結果を踏まえ、各種石英や長石鉱物の試料温度制御下でのCLスペクトルの再測定を行いつつある。また、炭酸塩鉱物や含水ケイ酸塩鉱物については、試料温度制御下でのCLスペクトル測定をほぼ終えている。これらスペクトルデータを波形分離解析し、発光成分の特定と帰属を決定できた。現在、各発光成分の試料温度に対する挙動を配位座標モデル(例えば、DexterモデルやMott-Seitzモデル)を基にして解析中である。一部の温度消光過程については、その活性化エネルギーを算出できた。
試料温度を変化させたときのCLスペクトル測定時にみられる、試料ステージ(試料ホルダーと試料自身)の熱収縮や膨張の影響を早く取り除き、安定したスペクトル計測を実現する。これに合わせ、試料温度変化に対し発光強度を著しく影響を受ける鉱物については、既にワーキングスタンダードを選定したので、従来の測定結果をスタンダードを用いて規格化して定量評価する。CLに大きく関係する不純物元素や構造欠陥など結晶化学的性質についても、質量分析法(LA-ICP-MS)、電子スピン共鳴法(ESR)、顕微ラマン分光法などにより決定し、その結果をスペクトル解析(特に発行中心の帰属)に活用する。各種鉱物の試料温度制御下でのCLスペクトル測定を一通り終えることができ、多くのスペクトルデータの解析作業に取り掛かっている。鉱物種ならびに試料温度ごとに発光中心がさまざまな挙動を示すことから、解析過程で大量の数値データを処理する必要があり、 エクセルのマクロを用いたプログラムを作成し、試作段階としては完成している。実際のスペクトルデータを用いプログラムを検証し、完了すれば処理に取り掛かる。本研究は最終年度を迎えることから、今まで得られた研究成果を取りまとめ、国内外の学会にて発表するとともに国際誌へ掲載論文として公表する。主に長石系鉱物および含水ケイ酸塩鉱物については、論文化の目処が立ち、共著者と最終調整を行い、速やかに専門誌へ投稿する予定である。炭酸塩鉱物のCLは、試料温度に大きく依存し、また試料の生成や変成の履歴を反映する複雑な挙動を示すことが明らかとなり、その解明には従来とは異なる温度消光メカニズムを構築が必要である。この点が解決できれば、論文作成へ前進する。
すべて 2017
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 4件)
Geology
巻: 45 ページ: 303-312
Journal of Mineralogical and Petrological Sciences
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Geochronometria
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