研究課題/領域番号 |
16K05622
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
佐久川 弘 広島大学, 生物圏科学研究科, 教授 (80263630)
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研究分担者 |
竹田 一彦 広島大学, 生物圏科学研究科, 准教授 (00236465)
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研究期間 (年度) |
2016-10-21 – 2019-03-31
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キーワード | 活性酸素種 / フリーラジカル / 瀬戸内海 / 溶存有機物の光分解 |
研究実績の概要 |
広島大学生物生産学部練習船の豊潮丸航海(2017年7月および8月)において広島湾、燧灘、播磨灘、大阪湾、紀伊水道で表層および底層海水をニスキン採水器で採取した。CTD、水中光量子、GPS、気象データ等を船の観測システムで得た。船上もしくは研究室に持ち帰り、活性酸素種であるヒドロキシルラジカル(OH)、スーパーオキシド(O2-)、過酸化水素(H2O2)、一重項酸素(1O2)、一酸化窒素(NO)、有機過酸化物(ROOH)、脂質過酸化物(LOOH)の測定を行った。本年度は、これらの活性酸素種のほかに、ペルオキシナイトレート(ONOO-)の測定も実施した。また、海水試料中の溶存有機物(DOM)、蛍光性溶存有機物(FDOM)、有色溶存有機物(CDOM)、亜硝酸イオン(NO2-)濃度の測定を行い、活性酸素種の発生源や発生機構の解明を行った。また、研究室において海水試料への光照射実験を行い、活性酸素種の光化学的生成速度を求めた。その結果、FDOMやCDOMから光化学的にO2-およびH2O2が発生することや、NO2-の光分解によりOHおよびNOが主に発生することが確認された。さらに、O2-とNOとのラジカル同士の反応からONOO-が発生することが明らかとなった。これらの活性酸素種はアトモーラー(10-18M)からナノモーラー(10-9M)の濃度で存在し、海水中での半減期は10-6秒~数日の範囲であった。ONOO-が海水中に存在することを本研究で初めて明らかにした。得られた研究成果は、3件の学会発表および国際学術誌に2報出版することにより公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
瀬戸内海海水中に存在する主要な活性酸素種の全てを本研究で測定することができた。従来、個々の活性酸素種の測定例は国内外で多いが、主要活性酸素種のすべてを測定した例は存在しない。瀬戸内海のような人間活動の影響を強く受ける沿岸において、活性酸素種の存在濃度や動態を詳細に明らかにしたことは評価されることと思う。また、これまで存在が知られていなかったペルオキシナイトレートのような活性酸素種の存在を明らかにしたことは大きな前進である。したがって、本研究課題は当初の計画以上に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
①海水中の活性酸素種の発生・消失機構の解明: 海水中の活性酸素種の多くは溶存有機物から発生することを本研究で明らかにした。しかし、発生に関与する特定の有機物の種類や性質に関する知見は十分に得られていない。そこで、今後はカテキン、タンニン、フルボ酸のような有機物に焦点を当てて、それらの有機物からの活性酸素種の発生を具体的に明らかにする研究を行う予定である。 ②活性酸素種が海洋での炭素や窒素の循環に果たす役割の解明に関する研究: 海水中の活性酸素種は溶存有機物の無機化に関与することにより、海洋における炭素循環に影響を与えていると考えられる。また、窒素化合物の循環にも関与していると考えられる。しかし、その詳細は明らかではない。そこで、今後溶存有機物の分解過程に作用するOHや窒素循環に関与するNOおよびONOO-などの活性酸素種の果たす役割について、室内実験および野外観測の両方から解明することを試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、農薬類やメチル水銀などの有害化学種との反応過程を調べる実験を実施した。その実験に必要な試薬類や有機溶媒などの消耗品を平成29年度の予算項目として計上した。しかし、試薬類の実質価格が当初の見積もり価格よりも低い値であったので、47円が次年度使用額として生じた。したがって、次年度はこの金額を試薬類の購入に充てる予定である。
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