広島大学生物生産学部練習船の豊潮丸航海(2019年2月および3月)において広島湾、燧灘、播磨灘、大阪湾、紀伊水道で表層および底層海水をニスキン採水器で採取した。CTD、水中光量子、GPS、気象データ等を船の観測システムで得た。船上もしくは研究室に持ち帰り、活性酸素種である過酸化水素(H2O2)の測定を行った。また、海水試料中の溶存有機物(DOM)、蛍光性溶存有機物(FDOM)、有色溶存有機物(CDOM)、亜硝酸イオン(NO2-)濃度の測定を行い、活性酸素種の発生源や発生機構の解明を行った。また、研究室において海水試料への光照射実験を行い、活性酸素種の光化学的生成速度を求めた。一方、広島県東広島市において、黒瀬川河川水中の活性酸素種の測定を行い、生成源や消失機構を明らかにする試みを行った。 その結果、FDOMやCDOMから光化学的にO2-およびH2O2が発生することや、NO2-の光分解によりOHおよびNOが主に発生することが確認された。さらに、O2-とNOとのラジカル同士の反応から生成するONOO-が瀬戸内海の多くの海域で検出され、その濃度が測定された。これらの活性酸素種は、10-12から10-9M/sの光化学的生成速度であり、アトモーラー(10-18M)からナノモーラー(10-9M)の定常状態濃度で存在した。また、河川水中の活性酸素種の測定結果により、特定の溶存有機物(腐植物質など)から一重項酸素が多く発生することが推定された。異なる活性酸素種との間の反応(ラジカル―ラジカル反応)による消失機構があることが明らかとなった。得られた研究成果は、4件の学会発表および国際学術誌に4報出版することにより公表した。
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