研究課題/領域番号 |
16K05626
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
菅原 広剛 北海道大学, 情報科学研究科, 准教授 (90241356)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 磁化プラズマ / 対向発散磁界 / 閉じ込め効果 / フィルタ効果 / 電子運動 / 分界面 / モンテカルロ法 / シミュレーション |
研究実績の概要 |
対向発散磁界分界面による誘導結合型低気圧プラズマ中の電子閉じ込め(シャッタ)効果・フィルタ効果の機能・用途開拓のため,その基礎特性の計算機解析を行い,次の成果を得た。 1.分界面のフィルタ効果評価の一環として,電子の分界面通過位置により区別して分界面下部領域における電子エネルギー分布をサンプリングし,分界面通過位置と電子エネルギー高低の関連性を観察した。分界面中央部低磁界域シャッタ開口部を通過した電子は低エネルギー,分界面外縁部を通過した電子は高エネルギーとなる選択性が見られた。同時に,分界面通過前後に共鳴磁界域付近を通過する電子はそこでエネルギーを受け取ることが観察された。 2.プラズマ維持の要である電子へのエネルギー供給過程を位置分解して観察し,アンテナ直下高電界域,零磁界点周辺共鳴磁界域,容器側壁近傍の三領域で電子エネルギー利得が大きいことを見出した。各所の電子エネルギー利得を時間分解すると位相遅れや波形歪に各々固有の特徴が見られ,三者三様の電子エネルギー利得機構の存在が示唆された。 3.未解明だった上記第三の容器側壁近傍での電子エネルギー利得機構が,磁界下の電子旋回運動に伴う統計的整流性の要因を含むことを解明した。器壁における電子反射が電子旋回軌道のうち周方向の一方へ向かう動きを抑制することで円筒容器内周方向電子移流に偏りが生じ,交流電界交番への応答が非対称になることが分かった。 4.電界下で電子エネルギー分布と電子輸送係数の計算に用いられていたプロパゲータ法を拡張し,磁界下における同分布・係数の数値的に安定な計算法を開発した。また,モンテカルロ法でサンプル数が減少する場合,特に低電界・強磁界で深刻になる統計変動への対策として,定期的サンプル複製法の適用条件を吟味し,計算負荷低減と電子輸送係数計算における適正な統計的安定化の方法を考案した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画の前倒しにより当初計画と順序が前後した項目が一部にあるが,当初計画した解析内容と,解析の中で生じた諸課題について,並行して取り組んでいる。 解析対象として着目している複数の物理量・応答特性(電子エネルギー分布,電子輸送係数,エネルギー選択的電子通過の観察)については,初年度に行った作業・検討・観察の結果(プログラム調整,閉じ込め脱出判定法選定,電子の分界面通過位置によるラベリング,エネルギー利得履歴追跡など)を利用して順次解析を進めている。 また,解析の中でプラズマの構造と応答の基礎となる特徴(電子へのエネルギー供給過程の場所による違い,プラズマ励起用高周波アンテナとカップリングするプラズマ電流ループの指向性・非対称性)が見出された。制御の観点から重要で,かつ,物理的にも興味深い現象と捉え,これらの特徴の発現機構についての解析と検討も深めている。 更に,不均一電磁界下の電子輸送を定量的に評価・予見するための比較対象・基準となる一様電磁界下の電子輸送係数の算出がかねてからの課題であったが,電磁界下の電子エネルギー分布と電子輸送係数の安定な数値計算法(プロパゲータ法)を確立し,更に検証用の計算法であるモンテカルロ法も負荷低減による計算の効率化と統計的安定化を図った。第3年度で計画している本格計算に臨むに当たり,諸量の定量的比較手法の面での環境が整えられた。
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今後の研究の推進方策 |
計画に挙げた項目の解析には概ね着手しており,解析対象のプラズマの基本的な構造と応答の理解が深められている。第2年度までに得られた知見を基に,今後も引き続き計画に沿って,制御の面で依存性の強い条件を抽出したりその設定範囲を広げたりすることで好ましい運転条件や装置設計指針の提示を目指す。 また,これまでの解析で新たに見出された特徴的な電子エネルギー授受機構についても,反応活性種生成位置の制御や輸送の効率化のための知見,プラズマ励起制御の一つの要素として解析を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じたのは主に次の理由による。初年度から第2年度に購入を持ち越した作図用ソフトについて新版ながら安価な製品を購入できたこと,第2年度の国際会議発表のうち招待講演の1件について参加費が免除返金されそのための支出予定分が残ったこと,第2年度に投稿した論文のうち2編が年度を超えて査読中となりその掲載料・別刷代他諸経費を留保していること,である。 物品費は第3年度分と合算し,解析における本格計算に要求される計算機環境の増強に充てる。この際,現有計算機環境を有効活用できるよう費用対効果が高いと期待される増強策を採るよう配慮する。論文関係費用の留保分は論文掲載が決定し支払手続きが可能となり次第順次支出する。第3年度にも本課題に関する国際会議招待講演を受諾したため,国際会議参加費の繰越分および物品費他に余裕が生じた分を成果発表関連の費用に充てる。
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