研究課題/領域番号 |
16K05629
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研究機関 | 宇都宮大学 |
研究代表者 |
齋藤 和史 宇都宮大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (70251080)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 微粒子プラズマ / 磁場 / 非一様 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、微粒子プラズマに比較的強くかつ非一様磁場を永久磁石によって印加し、磁場中における微粒子の運動の機構を明らかにすることである。 今年度は、表面磁場 0.14 Tのネオジム磁石2個を用いた実験を行った。この実験を行うために2つの永久磁石の相対位置を容器外からのマニュアル操作で制御できる機構を作製した。磁極の向きの組み合わせと磁石間の距離を変えて微粒子の運動の様子を静止画で記録し、磁石が単一の場合と同様に軌道形状の変化等を調べた。2つの極が同じ向きのときには,磁石が接近するにつれて微粒子の軌道が八の字状から恰も一つの大きな磁石を置いた場合と同様となった。極が互いに逆向きのときには、磁石が近づくにつれて大多数の微粒子は視界から消え、僅かな微粒子が磁石の間に捕捉された。 単独の磁石を用い、実験条件を変えた実験も行った。プラズマの密度分布等が大きく変わるため微粒子の分布への影響が大きいことが見出された。より慎重な実験が必要であることがわかった。 実験と比較可能な粒子シミュレーション・コードの作製にも着手した。プラズマ中の微粒子集団が流体的に振る舞うことが多いことから、Smoothed Particle Hydrodynamics (SPH) 法を用いることとした。一般には流体要素を超粒子に見立てて流体の挙動を計算するために用いられることが多いが、本研究では超粒子を微粒子そのものと見做している。コードの基本的な部分は出来上がっている。 微粒子と磁場の相互作用に関する実験的研究は、本研究以外ではアメリカの大学において大規模かつ強磁場を用いて行われている以外にはほとんどない。また、微粒子プラズマの平成29年度に開催される国際会議において、本研究の成果に関する招待講演が決定している。微粒子プラズマの研究において大いに国際貢献ができていると自負している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
永久磁石の相対位置を容器外からの手動制御できる機構は、磁石間の位置関係について写真解析の際に画像から判断するしかない等改善の余地は小さくはない。それでも、とりあえず実験を行える程度までは出来上がっている。微粒子閉じ込め電極の影響が大きいため、電極形状を改善した上で再度、実験を行う必要があると考えている。2つの極が互いに逆向きのときに磁石が近づくにつれて視界から消えた大多数の微粒子の行方が追跡できていない。微粒子の移動速度が非常に大きいためだと予想される。予定していた進捗状況よりも若干遅れている感は否めないものの、概ね予定通りに進捗していると思われる。 磁場強度等の実験条件を変えて実験を行う際に、生成されるプラズマそのものへの磁場の影響と、微粒子の挙動への影響を実験的にきちんと仕分けして解析する必要がある。ラングミュア・プローブによるプラズマ・パラメータの計測をより細かく密にする等だけでなく根本的なプラズマ診断法を用いる等が必要ではないかと考えられる。 シミュレーションに用いた SPH 法は多数の粒子を扱ったシミュレーションを短時間で行うことができるという利点の一方で、圧縮性流体をシミュレートするために開発されたものであるため原理的に運動量保存則が成り立たないことや、計算条件によって発散しやすいなどの問題点があることが知られている。本研究で開発しているコードでは,とりわけ径方向への運動量輸送が巧く行かず、試行錯誤を行っているところである。しかしながら、基本的な部分は既存のソース(M. Takagi氏の御好意による)を利用させていただいていることもあって予想以上に早く構築することができており、予定に近いペースで進捗していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
科研費申請時に計画していたように、これまでに得られている単一磁石を用いた実験と複数の磁石を用いた実験の結果を基に、国内外の研究の進展を見ながら、さらに研究を進める。非一様磁場下における微粒子の分布や運動について、少なくとも骨格となるモデルの構築を行えるよう努力をする。 これまので研究によって、用いている系における微粒子流はReynolds数が非常に小さい粘性流であると考えられる。単一の永久磁石による非一様磁場下における微粒子の挙動は、同軸円筒中における通常の流体におけるTaylor-Couette流を想起させる。また、微粒子の運動のシミュレーションにTaylor-Couette流のシミュレーションの考え方を応用できると考えられるため、今年度から取り掛かっているシミュレーション・コードの完成を目指し、できれば実験結果との比較を行う。 単一・複数磁石を用いた非一様磁場で実験を行う。微粒子の運動について、様々な高さにおける水平面における動画で微粒子を追跡して軌道を解析すると同時に,長時間露光の静止画によっても軌道が明らかにできるので、両者を比較検討する。鉛直断面においても同様である。機構の解明にはプラズマ・パラメーターの把握が重要であるので、Langmuirプローブによって計測する。磁場の大きさを変える方法を検討する。得られた結果を国内の学会や研究会、国際会議等で発表し、論文化する。 また、本研究からの派生ではあるが、新しい微粒子の帯電方法についての着想が得られたので、余裕があればその着想を現実化し、論文としてまとめる。
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