研究課題/領域番号 |
16K05636
|
研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
星野 正光 上智大学, 理工学部, 准教授 (40392112)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 電子分光 / プラズマ素過程 / 加熱分子 / 衝突断面積 |
研究実績の概要 |
本申請は,国際熱核融合実験炉(ITER)のような磁場でプラズマを閉じ込める中で起こる緩やかな拡散現象により,主プラズマから漏れ出した荷電粒子を壁と衝突させることで中性化させ,高効率で排気するためのダイバータ周辺における低温プラズマ中の挙動を理解するための原子分子過程,特に荷電粒子,ダイバータ壁,中性水素原子や水素分子の複雑な相互作用による反応素過程の定量測定を目的とした。中でも,先行研究により高温タングステン表面と水素分子の相互作用によりボルツマン分布では説明できない高振動励起水素分子の生成が報告されていることに着目し,その高振動励起水素分子の低エネルギー電子分光法による断面積測定を計画した。これは,従来行われているプラズマモデリングにおいて,励起分子を標的とした原子分子過程は考慮されておらず,より現実に近い精密なモデリングをするためには,このような壁と水素分子の相互作用により形成された高振動励起分子とプラズマ中の軽い電子との衝突断面積の定量データが必要不可欠となるためである。 そこで初年度である平成28年度は,主に装置の開発を行った。振動励起水素分子を生成するための水素分子加熱炉装置の設計開発,清浄表面の生成の必要性からより超高真空を得るための真空排気装置備品の購入・設置・排気テストを主に行った。また,先行研究で報告された高振動励起分子の生成を確認するための検証実験を行うための質量分析装置の立ち上げも合わせて行った。開発の途中,装置の設計開発段階の準備期間と物品の納入待ちの準備時間等において,プラズマ中の分子の解離過程を理解するための量子化学計算と電子衝撃断面積の定量測定及び分光学的なスペクトル測定も合わせて行った。これは,電子散乱断面積の基準データとして重要であり,本申請における電子分光装置の動作確認としても重要なデータとなる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度である平成28年度は,振動励起水素分子を生成するための水素分子加熱炉装置の設計開発,清浄表面の生成の必要性からより超高真空を得るための真空排気装置備品の購入・設置・排気テストを行った。また,先行研究で報告された高振動励起分子の生成を確認するための検証実験を行うための四重極質量分析装置(Hiden社)の立ち上げ,加熱分子ではなく室温における動作確認も合わせて行った。装置の設計開発,備品の納期と質量分析装置の動作確認に半年以上を要したことから,申請書における平成28年度計画に書かれた最後の標的水素と電子の衝突におけるエネルギー損失スペクトルの測定は現段階で残っている。しかしながら,ほぼ測定準備は計画通り整い平成29年度早々には試験実験を開始できることから,概ね申請時の計画通り進展していると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
初年度である平成28年度は,主に装置の立ち上げと測定開始準備に時間を費やしてきたが,平成29年度は開発した装置の動作確認,及び実際の測定に着手する予定である。具体的には,平成28年度に開発した水素分子加熱装置の既存の電子分光装置への導入と加熱テスト,同時に室温における電子と分子のエネルギー損失スペクトルを測定し,これまでの先行研究と比較することによる電子分光装置の動作確認,実験条件の確認を行う予定である。合わせて,平成28年度後半に準備を行ったHiden社の四重極質量分析器を用いた先行研究の高振動励起分子生成の検証を行う。ただし,高振動励起水素分子の数密度はかなり小さいことが予想されることから,測定時間は従来の室温の測定に比べ長時間を要することが見積もられる。そのため,統計の良い信頼性の高い測定データを得て,かつその断面積の定量測定を得るために,平成30年度前半まで延長した測定を予定している。それ以上に測定や確認に時間を要し,申請書の計画通り進まない場合には,すでに稼働している電子分光装置を用いた電子衝撃によるプラズマプロセス分子の基礎定量データを測定し,本申請と比較できる信頼性の高いデータを得る予定である。また,定量測定の性質上,加熱による漏れ磁場の影響などによる定量測定の困難さが生じた場合には,新たに磁場遮蔽用のミューメタルの導入や基準データの測定を重点的に行うことも計画している。
|