研究実績の概要 |
本研究課題は液体窒素で冷却されたイオン移動度質量分析装置を製作し、高分子イオンの三次元的な立体構造を観測することで、高分子の折り畳み構造の形成機構を研究することを目的とした。本研究では、エレクトロスプレーイオン化を用いたイオン源、四重極イオントラップ、液体窒素冷却されたイオンドリフトセル、イオンファネル、八重極イオンガイド、リフレクトロン型飛行時間質量分析計からなる実験装置を新たに設計製作した。 平成28年度にはイオン源の製作を行い、イオントラップを備えた質量分析計と組み合わせることで水和された色素分子イオンを観測し、溶媒和されたイオンの生成条件について最適化を行った。平成29年度にはイオンドリフトセルを製作して装置に組み込み、100 Kの低温条件下でのイオン移動度質量分析実験を開始した。最終年度である平成30年度には、イオンファネルをドリフトセルの終端部に増設した。さらにイオン光学系の改良を行ったことで観測されるイオン強度を増大させた。その結果、ドリフトセル内の緩衝気体の圧力を高くして、移動度分析の分解能を向上させることができた。 改良した装置を用いて、炭化水素鎖の構造の柔軟性を研究する目的で、両端にOH基をもつ直鎖アルカンジオールとアルカリ金属正イオンとの1:1錯体のイオン移動度質量分析を行った。実験の結果、1,7-ヘプタンジオールとNa+イオンからなる錯体では、ジオールの2個の酸素原子がNa+に配位した安定構造をもつことがわかった。すなわちジオールはNa+に配位することにより炭化水素鎖が折り畳まれた構造をとることを見出した。 さらに窒素分子を緩衝気体として用いることで、プロトンが付加した分子イオンの構造異性体(プロトマー)の分離を行い、プロトン付加する置換基が異なる場合に分子イオンの反応性が変化するか研究した。
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