研究実績の概要 |
【クラスターのペニング電子分光】ペニング電子分光法は、準安定励起原子A*と分子Mとの衝突反応(A* + M→A + M+ + e-)で放出される電子の運動エネルギーを測定する手法である。本研究のねらいは、真空中の孤立クラスターや生体分子の電子構造を研究することである。これらは極微量であることが多く、従来型の電子分光器では測定できないため、電子の捕集効率を極限的に上げた電子分光器を開発した。平成30年度は、アミノ酸に対する系統的な研究を実施し、多環芳香族炭化水素(PAH)のペニングイオン化反応の理論解析を行った。 【アミノ酸のペニング電子分光】側鎖にOH, SH基を有するアミノ酸、ならびに、C6H5, C6H4OH基を有するアミノ酸のペニング電子分光を行い、分子内水素結合とフェニル基π電子系による電子構造の変化をそれぞれ研究した。いずれの場合も回転異性体が多く含まれ、それらの安定性を理論計算で確定することにより、ペニング電子スペクトル(PIES)の帰属を行うことができた。カルボキシル基とアミノ基の非結合性軌道がHOMO近傍にエネルギー準位を持ち、分子表面外に広がる電子密度のため大きな反応断面積を示すことが明らかとなった。 【トラジェクトリ解析】ペニングイオン化過程は、粒子どうしの接近に伴うイオン化過程であり、分子の配向と重心間距離に依存したイオン化確率が反映される。イオン化確率が分子表面外の電子密度に比例するとしたExterior Electron Density (EED)モデルは、アミノ酸とPAHの実験スペクトルの相対強度を良好に反映することが分かった。また、準安定励起原子A*が分子Mに近づくトラジェクトリ(軌跡)に応じてイオン化確率を求める理論計算も行った。PAHのひとつであるナフタレンのイオン化動力学を明らかにすることができた。
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