芳香環をもつ有機分子の磁気配向について検討を行ってきた.磁気異方性の大きな有機分子は微小サイズの段階(微結晶段階については不明)から,磁場による配向の可能性が高い.また,微小領域の段階では,結晶面と液体の間の境界面の磁化率勾配に対する磁場効果,対流への磁場効果によるモルフォロジー変化など,配向以外の効果が期待できる.これら現象の機構は、結晶核が形成されて結晶成長の初期段階で磁気エネルギーが熱エネルギーを超えたとき磁場配向を示すと考えられている。本研究では,無置換の芳香族類について,結晶の磁場配向が始まる大きさ(臨界長)の測定および見積もりを試みた.多環芳香族化合物であるコロネンは針状結晶をつくり,磁化率の異方性に従って磁場印加方向に対して垂直に磁場配向を示すことが報告されている.この針状結晶について、磁場配向の程度を様々な大きさの結晶について検討を行った.マイクロメートルオーダーの結晶を作成して偏光顕微鏡を用いた解析において,1.2 T程度の磁場でもわずかながら配向していることがわかったが,解析は困難であった.このため,磁場強度を上げ,5 Tの磁場強度で,300マイクロメートル以上の長さを持つ針状結晶が配向を示していることがわかった. また,芳香族蛍光性物質としてピレンを用いたベシクル構造の評価,多くの芳香族化合物を含む石炭ピッチの磁場効果の研究も行った.磁場によるベシクルの変形がピレンモノマー蛍光寿命の変化を引き起こしていることがわかった.
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