研究課題/領域番号 |
16K05652
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
鳥居 肇 静岡大学, 教育学部, 教授 (80242098)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 水素結合 / 電場 / 分子間相互作用 / 振動スペクトル / 核磁気共鳴 |
研究実績の概要 |
「ペプチド基の,水素結合が強い会合体のアミド I モードが,しばしば高振動数に位置する」という通常概念とは逆の結果が,申請者の最近の研究で得られている。スペクトルを正しく解釈するための理論的基盤の必要性は高く,改良を続行する必要がある。本研究では,他振動モードに対象を広げて,且つ関連現象である振動シュタルク効果などとの相関を理論的に解析し,一般的且つ統一的理解と凝縮相系スペクトルシミュレーションへの発展を主旨とした研究を展開する。 平成29年度には,前年度のニトリル化合物対象の解析結果を受けて,ペプチドを対象とした解析に立ち戻って,水和による振動数と赤外強度の変化が,振動シュタルク効果およびNMR化学シフトとどのように相関しているかを中心に,理論的解析を進めた。その結果,アミドⅠモードの振動数と13C および17O NMR化学シフトについて,C=O上の水素結合形成,N-H上の水素結合形成,空間的に均一な静電場の3種のケースを包含する妥当な静電相互作用モデルを構築することができた。この結果をもとに,振動数とNMR化学シフトの静電的レスポンスをモデリングする上での戦略を論じた。特に,ペプチドのO原子について,部分電荷は(当然のことながら)負符号であるが,C=O伸縮に伴う電荷フラックスに寄与する電子密度を差し引くと,振動数シフトのスカラー成分においては,むしろ正符号の電荷をもった粒子であるかのような性質をもつことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画調書の「研究計画・方法」欄に記載した主題のうち,これまでに「水素結合形成に対する振動モードのレスポンスの解析」「振動Stark効果および13C NMR化学シフトとの相関の理論的解析」について,ニトリル化合物とアミド化合物を対象とした解析を進めることができた。つまり,平成28年度には,代表的なニトリル化合物の1つであるアセトニトリルを対象とした解析の結果を,J. Phys. Chem. A誌に論文を発表し,平成29年度には,代表的なアミド化合物の1つであるN-メチルアセトアミドを対象とした解析の結果(および他種の化合物と合わせて一般論に一歩踏み出した議論)を,J. Phys. Chem. B誌に論文を発表したところであり,両種の化合物について,振動数とNMR化学シフトの静電的レスポンスをモデリングする上での戦略を論ずるレベルにまで達することができた。このことから,「おおむね順調に進展している」と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後,研究計画調書の「研究計画・方法」欄に記載した主題のうち,これまでに進展が得られている「水素結合形成に対する振動モードのレスポンスの解析」「振動Stark効果および13C NMR化学シフトとの相関の理論的解析」について,対象となる化合物群や振動モードの種類をさらに増やして解析を実施し,一般的且つ統一的な理解を得られるよう,進める。また,「MDとの組み合わせによる液相系・生体分子系を対象としたスペクトルシミュレーション」については,上述した平成29年度までに得られた結果をもとに進める。つまり,そこで得られている結果をもとに,パラメーターセットを導出し,系のダイナミクスの効果を取り入れるための時間領域シミュレーション法に組み込む形で,従来以上に的確なスペクトルシミュレーションを実施する。これにより,特に水素結合系を対象として,スペクトルという実測可能量を正しく統一的に解釈するための指針を得ることを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 計算サーバに関わる消耗品の一部について,想定より少々長持ちしたものがあったため,わずかな次年度使用額が生じた。 (使用計画) 生じた次年度使用額は,年度の初期に,予定していた物品の購入のために使用する見込みである。
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