「ペプチド基の,水素結合が強い会合体のアミド I モードが,しばしば高振動数に位置する」という通常概念とは逆の結果が,研究代表者の最近の研究で得られている。スペクトルを正しく解釈するための理論的基盤の必要性は高く,改良を続行する必要がある。本研究では,他振動モードに対象を広げて,且つ関連現象である振動シュタルク効果などとの相関を理論的に解析し,一般的且つ統一的理解と凝縮相系スペクトルシミュレーションへの発展を主旨とした研究を展開する。 令和元年度には,前年度までにニトリル・ペプチド等について,水素結合と均一外部電場による振動スペクトルとNMR化学シフトの変化を統一的に説明する理論モデルを構築したのを受けて,これらをまとめた形での国際会議招待講演を令和元年7月におこなった。また,同じ分野を研究する海外の多くの研究者とともに,ニトリル・ペプチド以外の多くの具体例とその背景にある原理を総括的に論じる総説論文を執筆することとなり,現在のところ順調に進行中である。 一方,ペプチドのケースについて,海外の知己の研究者と意見交換を行い,その結果を基に詳細に検討を行ったところ,ペプチドと水分子の間の相互作用を主な解析対象として構築した理論モデルでは,ヘリックス構造におけるペプチド基間の多様な配置に対する考慮という点において,改良すべき点が残されていることがわかった。これは今後の課題として,研究を展開する予定である。
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