研究課題/領域番号 |
16K05653
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
立花 明知 京都大学, 工学研究科, 名誉教授 (40135463)
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研究分担者 |
瀬波 大土 京都大学, 工学研究科, 講師 (40431770)
市川 和秀 京都大学, 工学研究科, 助教 (50401287) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 量子電磁力学 / アルファ振動子理論 / 電子スピン渦度 / ストレステンソル密度 / スピントルク |
研究実績の概要 |
本研究の目的は相対論的場の量子論、特に量子電磁力学(Quantum Electrodynamics、 QED)を用いて化学結合・反応における電子スピンの本質をとらえるための理論「量子スピン渦理論」を深化・発展させ、化学結合を始めとする既知の化学現象を統一的に理論的に理解し、さらに進んで新しい化学現象を時々刻々予言するというものである。その予言を実利用するために計算プログラムコードを開発公開する。その計算アルゴリズムはアルファ振動子理論によって与えられる。アルファ振動子理論は、以下に示す相対論的場の量子論における基本的問題点(i)-(iii)から開放されるという画期的な新理論である。 (i) 無限遠方で場がゼロと仮定すると、自由場の概念自体に矛盾が生じる。(ii) 「場の演算子力学が解ける条件」と、「物理的」と呼び習わされる「粒子描像」とが非分離であり、繰り込み定数をc-numberと仮定すると演算子の交換関係に矛盾が生ずる。(iii) 従来の摂動論によるQEDの解法ではIn状態からOut状態への無限の時間経過が仮定されており、時々刻々の繰り込みに矛盾が生じる。具体的な研究目的は以下の二つである。(1) QEDに基づく量子遷移の計算(実時間シミュレーション)に向けての理論構築・コード開発。(2) 電子スピン渦度の物性・化学における応用。代表者は、理論構築ならびに計算コード開発のグランドデザインを行う。分担者は、計算コード開発を行う。具体的には2電子積分計算を既存のコードの高速化手法を用いて高速化を行うことに成功した。電子スピン渦度の物性・化学における応用としては、スピンホール効果による分極が電流やスピン渦とどのような関係にあるか研究を行った。電気伝導現象の基礎研究として、テンション密度とローレンツ力の釣り合いから電気伝導体内部での局所的な抵抗を知る計算方法を開発した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
量子力学が誕生してからおよそ100年が経過した現在に至るまで、二重スリット現象の基礎的動力学過程、すなわち、電子や光子一粒ずつが検出器のどこにたどり着くかを量子力学により時々刻々予言することはできない。その解釈としては、ボーアが主唱するコペンハーゲン解釈(「波動関数の収縮」という仮説に基づく確率論的解釈)が良く知られている。かかる状況の下で代表者は、素粒子代数の数学的下部構造を与えるアルファ振動子代数を発見し、これに基づき光子、電子および陽電子のアルファ振動子理論を構築した。次いで、アルファ振動子理論における時間依存繰り込みを定式化し、それを相対論的場の量子論のひとつである量子電磁力学(Quantum Electrodynamics、 QED)に応用し、QEDの漸近場によらない非摂動論的定式化を与えた。これを用いて、従来の非相対論的量子力学ではありえなかった双対コーシー問題とその解法を定式化した。その結果、長年にわたり予知不能とされてきた二重スリット現象を時々刻々予言できる理論を構築し、『量子力学のミステリー(ファインマン曰く)』を解消した。双対コーシー問題を取り扱うことにより初めて、隠れた変数を議論することなく、初期条件を全く同じにそろえても違った結果が決定論的に導かれる。二重スリット現象で観測される干渉パターンは、双対コーシー問題の解として与えられる。それは、予想に反して量子力学の波動関数では再現できない。量子力学の波動関数で与えられる干渉パターンは、真の干渉パターンとは似て非なるものである。本理論をアインシュタイン―ポドルスキー―ローゼン(EPR)観測で知られるエンタングルメントに適用すると、全く新しい完全な形での決定論が予言される。以上要するにアルファ振動子理論は量子力学の根源に迫るものであり、当初の計画を大きく超える理論的進展をもたらした。
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今後の研究の推進方策 |
アルファ振動子理論を任意の個数の粒子のエンタングルメントに適用する。任意の時刻における任意のイヴェント(event、 事象)の粒子数は、たかだか可算濃度の無限集合の部分集合であると考えられる。従って、ミンコフスキー時空において任意の時刻における連続体濃度の集合として存在するアルファ振動子は、これらの粒子の場の基準振動に繰り込むことが常に可能である。このようにして、量子力学波動関数の『確率分布』の名の下に隠された電子構造とダイナミクスの新しい一般的かつ定量的理論の道が開かれる。また、アルファ振動子によってすべての量子力学的なボース粒子やフェルミ粒子も定式化できる。つまり、このアルファ振動子は微視的なすべての粒子を統一的に解釈できるものと考えられる。アルファ振動子エネルギーは、既知の粒子の形をとらず全エネルギーに寄与しうる。この意味において、アルファ振動子理論は、我々の宇宙に我々の知っている粒子の形ではなく偏在し宇宙の加速膨張の原因とされるダークエネルギーの自然な候補を与えるとも考えられる。このように、理論構築においては今後もまったく新しい現象の予言につながる研究を精力的に推進してゆく。分担者は、引き続き計算コード開発を行う。その応用としては、電気伝導現象におけるスピン渦と電流の関係について研究を進め、その比例関係がスピン軌道相互作用によることを明らかにする。電気伝導体内部での局所的な抵抗を知る計算方法による研究をベンゼンジチオールを例にして行い。抵抗と電流の分布についての相関を確認する。他の物理量の分布との比較を行い抵抗の起源についての考察を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
予想以上に研究が進展したことに伴い,海外からの反響が予想以上に大きく,海外学会から招待講演の依頼が予想以上に増大したことに対応して,当該海外出張のための旅費を次年度に確保するため経費の見直しを行った.
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備考 |
QEDynamics および QEDalphaにおいては、理論的予言を実利用するための計算プログラムコードを開発公開している。Tachibana Lab(2件)においては、理論的成果を公開している。
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