研究課題/領域番号 |
16K05655
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
加藤 立久 京都大学, 国際高等教育院, 教授 (80175702)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 電子スピン共鳴測定 / 不安定化学種のトラップ / 酸素分子電子三重項状態 / 内包フラーレン / 窒素原子の反応性 / ランタノイド金属内包フラーレン |
研究実績の概要 |
ナノサイズ・フラーレンケージ内に原子分子,イオン,金属クラスターを孤立保存して,電子スピン共鳴(ESR)測定で検出し,その解析により,生成物の分子構造や電子・スピン状態を決定する.この手法はナノサイズ容器内にミクロカノニカル状態で分子やクラスターを固定し,高感度ESR検出を組み合わせるという独創的なものである.例えば,窒素プラズマ流の中でフラーレンH2@C70を昇華させ,基底状態の窒素原子と水素分子を,フラーレンケージ内・数オングストローム範囲に閉じ込めたときに起こる化学反応を詳細に追跡した.それは,20世紀最大の発見の一つであるHaber-Bosch法の化学反応機構にも関連する重要な研究であると期待された.結果的には,基底状態の窒素原子と水素分子を,数オングストローム範囲に閉じ込めるだけでは化学反応は起こらず,Haber-Bosch法の化学反応機構理論解析で予言されているように,窒素原子の電子スピン反転が起こらなければ反応は進まないことを確認できた.また,気体状態の酸素分子の基底電子スピン三重項状態を,極低温下でESR検出することに成功した.その結果,フラーレンケージに固定された状態の酸素分子は,気体状態で観測されている基底電子スピン三重項状態を保存していることを確かめた.一般的に不安定なGd金属内包フラーレンのスピン状態を決定することも出来た.Gd@C60(CF3)3のスピン量子数はS=7/2と決定できた.Gd二量体が内包されたGd2@C80,Gd2@C78の負イオンについては,共にスピン量子数がS=15/2と決定でき,2つのGdの4f軌道上にある7個のラジカル電子,負イオン化のために付加されたラジカル電子1個,合計15個の電子が強磁性的に結合したスピン状態であると決定した.以上の研究成果を論文発表・学会発表を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
基底状態の窒素原子と水素分子を,フラーレンケージ内・数オングストローム範囲に閉じ込めたときに起こる化学反応性をESR測定を用いて詳細に追跡して,論文発表した.また,気体状態の酸素分子の基底電子スピン三重項状態を,極低温下でESR検出することに成功し.これも論文発表した.一般的に単独では不安定なランタノイドGd金属の単量体や二量体をフラーレンケージ内に固定し,単量体としてGd@C60(CF3)3の形で精製単離し,二量体としてはGd2@C80負イオン,Gd2@C78負イオンとして精製単離することに成功し,極低温ESR測定でそれらのスピン状態を曖昧さ無く決定でき,研究成果を学会発表した.
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今後の研究の推進方策 |
既に質の良いESRスペクトルデータの取得に成功したので,得られたデータの詳細な解析と,その結果得られる研究成果を国内外の学会等で発表し,学術雑誌へ投稿する作業に集中する.まず,基底状態の窒素原子と水素分子をフラーレンケージ内に閉じ込めたNH2@C70が液体ヘリウム極低温下で示した,特異なESRスペクトルのシミュレーションの実施を行う予定である.フラーレンケージ内・数オングストローム範囲にN原子と一緒に閉じ込められたH2分子が極低温においても自由回転していることや,そのプロトン核スピンのクエンチングが観測できていると予測されるので,詳細にスペクトルシミュレーションで解析を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
予想以上に目的内包フラーレン分子の合成,精製単離作業が速やかに進み,既に非常に質の良いESRスペクトルを多く得ることが出来た.現在は測定結果を理論的に解析する作業段階に研究の重点が移っている.そのため,当初予定していた試料合成・極低温測定実験のための支出が少なくなった.また,理論計算も予想より速やかに進んでおり,さらなる理論解析を進めるための計算機周辺機器への支出と,研究成果発表のための旅費支出に研究費を充てる計画である.
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