研究実績の概要 |
研究課題名「ナノサイズ反応容器・内包フラーレン内での化学反応追跡」に沿った実績を目的として,外科手術的有機化学合成法で酸素分子O2とNOラジカルがフラーレンケージC60に内包された分子(O2@openC60,NO@openC60)を得て,電子スピン共鳴(ESR)測定と1H-NMR信号を観測することに成功した.O2@openC60では,フラーレンケージ内においても気体酸素での基底三重項状態が保存され,固体粉末状態でのSQUID測定とESR測定が可能であった.特にESR測定により基底三重項状態がフラーレンケージにより対称性低下の摂動を受けることを確認した.NO@openC60では,溶液状態で明瞭な1H-NMR信号とESR信号を観測出来たが,室温と極低温条件下で二つの測定結果は相補的なものになった.つまり,室温では1H-NMR信号のみが,低温ではESR信号のみが観測され,その分子磁性が大きく温度依存して,スピン状態の緩和過程が分子磁性を特徴付けている.特に,一酸化窒素NOラジカルは、軸対称な パイ軌道上に不対電子を持つため、電子スピン軌道相互作用が強く影響して、気相状態(無摂動状態)では明瞭なESR信号が得られないが,NO@openC60ではフラーレンケージからの摂動により極低温になると強いESR信号が得られたことは注目される. NO@openC60のスピン状態の詳細な追跡のため,極低温5KでのパルスESR測定を行った,電子スピンエコー磁場掃引(ESEFS)スペクトルは,CWスペクトルと良い対応関係を示した.各共鳴磁場での電子スピンエコー信号減衰変調(ESEEM)スペクトルには,13Cと1Hの核スピンZeeman周波数が観測され,二次元HYSCOREスペクトルに対応する対角ピークが観測されたことから,電子スピン緩和時間T1, T2はサブミリ秒あることが確かめられた.
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