研究実績の概要 |
(1) 生体内ではATP合成酵素として働くF1-ATPaseは, ATPエネルギーを力学的仕事に変換する回転分子モーターであることが実証されており,100%に近いエネルギー変換効率を実現する可能性が示唆されている.私どもは,確率過程モデルを構築し,様々なヌクレオチド濃度下における回転速度の外部トルク依存性を定量的に再現することにより,エネルギー変換効率を求めた.その結果,F1の効率はヌクレオチド条件に応じて40~80%程度の値であることを示した.この変換効率の低下は,高い外部トルク下における分子構造歪みに起因したスリップ回転よって説明され,非可逆的な内部熱散逸が生じていることが明らかとなった. (2) 10残基によるモデルタンパク質シニョリンの構造安定性の自由エネルギー解析を行い,折り畳み安定性の主要因子を明らかにした.疎水性水和効果を含む溶媒誘起相互作用は基本的にunfolded構造を安定化しており,天然構造の安定性は主に分子内直接相互作用に起因していることを定量的に示した.本解析の有効性を実証するために,高温変性および高圧変性に適用し,実験および分子動力学法を定量的に再現した.解析の結果,高温変性において,溶媒誘起相互作用は天然構造をむしろ安定化しており,unfoldingの駆動力は分子内配座エントロピーに起因することを示した. (3) 二種類の異なるアミン系高分子(TETA, DETA)と複合体を形成する金ナノ粒子を使用して,新たな表面増強ラマン散乱を発見した.小角X線散乱測定およびModel-potential-free法を用いて,金ナノ粒子間相互作用ポテンシャルV(r)を導出した.それにより,金ナノ粒子間の0.9 nmのギャップ構造の存在を定量的に示し,TETAナノ粒子複合体における表面増強ラマン散乱は,このナノギャップ構造に起因することを実証した.
|