研究課題
水は水素結合ネットワークを形成し、様々な局所構造をとる。この構造多様性こそが水の特異な物性の起源であり、それを知悉することは水の物性予測の面でも非常に重要である。本年度は新たな構造の可能性を探るために、負圧~超高圧までのシミュレーションを行った結果、多数の新奇な結晶構造が得られた。(1) 超高圧下での水の相転移挙動を調査した結果、従来実験で発見されていた高圧氷6と氷7の共存線付近で、2種類の新たな氷結晶を発見した。1つは以前の研究で準安定相と予測されていたが、実は広い温度圧力範囲で安定相として出現することが判明した。もう一つは、さらに高圧側で生じ、これまで知られている高圧氷のなかで最も複雑な単位胞を持つことが判明した。これらの氷は現実の氷では見つかっていないことから、準安定相であると予想される。(2) 近年、通常の氷よりもさらに密度の低い氷の多形、氷16と氷17が相次いで発見され、低密度の氷の状態図に興味が集まっているが、通常の氷よりも低密度な氷を直接生成するには、負の圧力を実現する必要があり、実験的には困難がともなう。そこで我々はゼオライト結晶構造データベース等を援用して、低密度の氷の候補構造約400種類を網羅的に調査し、そのなかでいくつかの結晶構造は実際に負圧で安定となりうることを理論的に示した。さらに、こうして見付かった結晶構造の構成要素を再検討し、さらに密度の低い、人為的な結晶構造をデザインし、それらの熱力学物性を理論的に予想した結果、エアロアイスと呼ばれる、極めて密度の低い氷が熱力学的には最も安定となりうることを示した。現実的に考えると、エアロアイスを合成するのはほぼ不可能にもかかわらず、それが最も安定な相であると推論されてしまうのは、熱力学に基く安定性の議論が、負圧の世界では成り立たないことを示唆し、安定性を評価する新たな枠組みが必要である。
2: おおむね順調に進展している
当初計画では想定していなかった多数の氷構造を調査し、負圧~超高圧の間で多数の新たな安定な氷構造を見付けだした。これにより、我々は、世界的に見ても最も多種類の氷を日常的に扱うことになり、俯瞰的な立場で水研究を進められるようになった。現在も新たな氷構造をいくつか発見し、発表を準備中である。
2017年度は主に水のみが形成する氷の構造を広く調査することに費した。2018年度は溶質分子によって誘発される氷構造(水和結晶構造)および水和構造の調査に踏み込む。実験家や高分子シミュレーションの専門家とも協力し、扱う対象をひろげる。
すべて 2017
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 5件)
Langmuir
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