研究課題
分子動力学と理論を組み合わせることで、負圧から超高圧まで、水がとりうるさまざまな結晶構造を網羅的に調査した、高圧では、本来は結晶の融点を推定する技法である直接共存法を、新しい結晶構造を創発させる手法として利用することで、さまざまな新しい結晶構造を発見した。そのうち1つは、これまでの計算機シミュレーションで自発的に形成した結晶構造としては史上最大の単位胞を持つ。これらは実験では発見できていないので、準安定相と考えられる。負圧領域については、300を超えるさまざまな結晶構造の可能性を調査し、はじめてその相図を詳細に描いた。水の相図は複雑であることで有名だが、負圧では、機械的安定性限界による相転移が起こるため、負圧の相図は正圧のそれよりも複雑になる。負圧の相図を調査する過程で、水がカーボンナノチューブを水和することで、新しい結晶構造に凍ることを見付けた。このとき生じる結晶構造は、カーボンナノチューブを除去してもかなり安定であり、低密度氷の有力な候補の一つである。また、ゼオライトの構造から連想し、負圧で最も安定となる仮想的な超低密度氷「エアロアイス」の存在を初めて予測した。エアロアイスを作る方法は不明だが、理論的には空気よりも軽い氷もありえて、しかも負圧領域で低温ではほかのどんな氷よりも熱力学的に安定である。過冷却水が自発的に2種類の液体に相分離する現象をはじめて分子動力学シミュレーションで再現し、それらの構造の違いを明確に捉える複素局所構造指標を提案した。従来の局所構造指標を用いると、過冷却された水はあたかも通常の液体の水と氷の中間的な構造を持つように見えてしまうが、我々が開発した指標では、過冷却水が氷とは全く違う独自の秩序構造を持つことがわかる。また、ベイズ理論に基き、ひとつの系に混在するさまざまな相を的確に識別する簡便な手法を開発した。
2019年3月2日に秋葉原UDXシアターで開催された「見える化シンポジウム2019」(https://ccms.issp.u-tokyo.ac.jp/event/1200)にて、冒頭、「分子と結晶のランデブー」と題し、シミュレーション結果からどうやって情報をひきだすかをデモンストレーションする映像を上映しました。
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The Journal of Chemical Physics
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https://youtu.be/rSMkwyhxbXg