研究課題
溶媒和自由エネルギーの計算結果には溶媒-溶媒間相関関数の精度が顕著に影響することが分かっているため、溶媒の計算精度を高めるための方法を検討している。全相関関数の短距離部分には分子動力学(MD)法のデータを用い、長距離部分はOrnstein-Zernike(OZ)理論で記述するというhybrid closureの適用について、これまでに1成分の溶媒に関して検討してきた。今回は陽イオンと陰イオンの2成分からなる溶融塩のモデルに対してhybrid closureの適用可能性を検討し、等温圧縮率や圧力などの観点からMDとOZの接続がうまく機能していることが確認できた。hybrid closureにはブリッジ関数を抽出できるという特徴もある。溶融塩モデルはクーロンポテンシャルを含んでいるため、そのような系にhybrid closureを適用することでクーロン系のブリッジ関数がどのような関数形をしているのかを調べることができる。結果として、高密度においてはLennard-Jones(LJ)系で見られるようなブリッジ関数のuniversalityに似た挙動が観察された。しかし、同種イオン間と異種イオン間とでブリッジ関数は定量的に異なっていた。さらに、低密度では異種イオン間のブリッジ関数がLJ系で見られるものとは明らかに異なる関数形となった。これはRosenfeldらが提唱したuniversality ansatzが成り立たないことを示す結果となった。また、2018年度~2019年度にLJ系に対して提案した角度平均OZ理論を、クーロン系へ拡張することも試みた。溶媒は溶融塩とし、部分電荷を持つ二原子分子を溶質と考え、埋もれた原子に関する分布関数を角度平均OZ理論でうまく記述できるかどうかを調べた。結果として、クーロン系であっても埋もれた原子に対して角度平均OZ理論がうまく機能することが確認できた。一方、角度平均OZ理論は埋もれていない原子に対して記述が悪いことも判明した。この点は今後の課題である。
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Journal of Molecular Liquids
巻: 388 ページ: 122803~122803
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AIP Advances
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