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2016 年度 実施状況報告書

光の量子性を利用した単一微小液滴顕微分光装置の開発と生体分子ゆらぎへの適用

研究課題

研究課題/領域番号 16K05661
研究機関大阪市立大学

研究代表者

迫田 憲治  大阪市立大学, 大学院理学研究科, 准教授 (80346767)

研究期間 (年度) 2016-04-01 – 2019-03-31
キーワード微小液滴
研究実績の概要

空間捕捉された単一微小液滴はミクロな光共振器として働く.自由空間と比べて,微小光共振器の中では電磁場モードの状態密度分布が大きく変化するため,その中におかれた分子の自然放出速度は増強される(Purcell 効果).また,空間中に捕捉された単一微小液滴は,表面張力の働きによってほぼ完全な球体を形成するため,共振器の光閉じ込め能力を表わすQuality factor(Q 値)が極めて高くなる.よって,微小液滴内に溶存する分子を光ポンピングすると,極めて低いしきい値で,液滴界面近傍からのレーザー発振が観測される.即ち,微小液滴からの超低しきい値レーザー発振や Purcell 効果を利用することによって,これまでにない感度で生体分子を検出できる可能性がある.本研究は,光の量子効果を取り入れた新規な高感度単一分子顕微分光法を確立し,これを用いてタンパク質の構造とゆらぎのダイナミクスを解明することを目指している.
本年度は1分子レベルの検出感度を達成するために,自作の共焦点レーザー顕微鏡の光学系を改良するとともに,光検出器としてアバランシェフォトダイオードを導入した.テスト計測として,カバーガラス上にスピンコートした蛍光マイクロビーズや蛍光ナノダイヤモンド粒子の1粒子画像の観測を行った.得られた蛍光像を解析することによって,ガラス基板上に分散した蛍光性粒子を1粒子感度で計測できていることがわかった.また,細胞膜染色色素であるシアニン色素を用いて,直径10マイクロメートル程度の微小液滴からの蛍光像を観測することに成功した.

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本年度は,1分子計測感度を達成することを目指して,自作の共焦点レーザー顕微鏡の改良をおこなった.以前の光路系では,微小液滴を励起するためのレーザー光を3次元イオントラップの横方向から導入していたが,これをイオントラップの上方向から導入するように改良した.これにより,対物レンズを通して励起用レーザー光を効率よく集光することが可能になった.また,微小液滴からの蛍光をビームスプリッターを用いて2方向に分岐し,冷却CCD検出器付きポリクロメータとアバランシェフォトダイオードで同時計測できるようにした.これにより,微小液滴に溶存した分子の分光情報と位置情報を同時に計測できるようになった.これらの改良による計測感度の向上を評価する目的で,カバーガラス上にスピンコートした蛍光マイクロビーズや蛍光ナノ粒子(量子ドットおよび蛍光ナノダイヤモンド)の1粒子計測を行った.得られた顕微蛍光画像は,離散的な輝点から構成されており,1粒子計測感度を達成できていることを示唆している.
3次元イオントラップ内に空間捕捉した単一微小液滴の気液界面にシアニン色素でラベルした界面活性分子を吸着させることで,液滴表面に膜構造を構築した.また,この膜構造を光励起することによって,微小液滴に特徴的なWhispering Gallery mode(WGM)を含む発光スペクトルを観測することに成功した.理論的に算出できる3次元球に対する空洞共振器の共鳴モードとWGMの観測波長を比較することによって,空間捕捉した微小液滴の大きさを正確に評価できるようになった.

今後の研究の推進方策

平成28年度の研究によって,改良した共焦点レーザー顕微鏡が1粒子検出感度をもつことが示唆されている.今後は,サンプルを色素分子に置き換え,分子から放出される蛍光のアンチバンチングを観測することによって,1分子検出感度が達成されているかを定量的に評価する.
Purcell 効果の大きさは共振器の光閉じ込め能力(Q 値)と共振器長(正確には電磁場のモード体積)に依存することが知られており,Q 値が大きい程,また共振器長が短いほど Purcell効果は大きくなる.微小液滴の場合,液滴が大きいほど Q 値は大きくなるが(Purcell効果に有利),同時に共振器長は長くなる(Purcell効果に不利).つまり,微小液滴では,Purcell効果が最大になる最適の大きさが存在するはずである.我々の装置では,エレクロスプレーイオン化の条件を変えることで,生成する微小液滴の大きさを制御できるので,Purcell効果の観測に最適な液滴の大きさを探る.
時間相関単一光子計数法によって,色素ラベルした天然状態のタンパク質の蛍光寿命を測定する.このデータをバルク水溶液での実験結果と比較することによって,微小液滴 内における自然放出速度と検出光子数の増加に関するデータを得る.なお,測定に用いるサンプルは,取り扱いが比較的容易なポリプロリン,ミオグロビンやシトクロム c などのヘムタンパク質,Cold shock protein を予定している.蛍光色素導入キットを用いてこれらを色素ラベルする.

次年度使用額が生じた理由

平成28年度の研究では,現有の共焦点レーザー顕微鏡の改良を行うため,各種光学コンポーネントを購入した.当初はレーザー顕微鏡の対物レンズとして油浸型とドライ型を併用することを考えていたが,研究の進捗によって油浸型のみでも比較的良好な性能を引き出せることがわかった.よって,研究の迅速な進捗を優先するために,ドライ型対物レンズのテストは翌年以降に行うこととした.また,同様の理由により,励起光源用のファイバー光学系のテストも翌年以降に行うことにした.以上の理由により,次年度使用額が生じた.

次年度使用額の使用計画

平成29年度の研究では,ドライ型対物レンズを購入し,レーザー顕微鏡に実装する.信号検出感度を油浸型対物レンズと比較することによって,両者の利点および欠点を比較する.また,励起レーザー光の横モードを整えるため,励起光源用のファイバー光学系を購入する.

  • 研究成果

    (9件)

すべて 2017 2016

すべて 学会発表 (9件) (うち国際学会 2件、 招待講演 3件)

  • [学会発表] 空間捕捉した単一微小液滴表面におけるシアニン色素のレーザー顕微分光2017

    • 著者名/発表者名
      大谷拓也,迫田憲治
    • 学会等名
      日本化学会年会
    • 発表場所
      慶應大学(神奈川県・横浜市)
    • 年月日
      2017-03-16 – 2017-03-19
  • [学会発表] 分光測定から観た分子科学-真空中から細胞模倣環境までー2016

    • 著者名/発表者名
      迫田憲治
    • 学会等名
      第17回大つくば物理化学セミナー
    • 発表場所
      城西大学鋸南セミナーハウス(千葉県・安房郡鋸南町)
    • 年月日
      2016-11-26 – 2016-11-27
    • 招待講演
  • [学会発表] 空間捕捉した単一微小液滴の表面に構築した単分子膜のレーザー顕微分光2016

    • 著者名/発表者名
      安冨翔太,迫田憲治
    • 学会等名
      第39回溶液化学シンポジウム
    • 発表場所
      産業技術総合研究所(茨城県・つくば市)
    • 年月日
      2016-11-09 – 2016-11-11
  • [学会発表] 空間捕捉した単一微小液滴表面に構築した生体膜のレーザー顕微分光2016

    • 著者名/発表者名
      安冨翔太,迫田憲治
    • 学会等名
      第10回分子科学討論会
    • 発表場所
      神戸ファッションマート(兵庫県・神戸市)
    • 年月日
      2016-09-13 – 2016-09-15
  • [学会発表] ヒドロキシプロピルセルロースの構造転移に対するホフマイスターアニオンおよびポリエチレングリコールの複合効果2016

    • 著者名/発表者名
      米山可凛,関谷博,迫田憲治
    • 学会等名
      第10回分子科学討論会
    • 発表場所
      神戸ファッションマート(兵庫県・神戸市)
    • 年月日
      2016-09-13 – 2016-09-15
  • [学会発表] リボヌクレアーゼAの安定性に対する電解質と分子混み合いの複合効果2016

    • 著者名/発表者名
      大内仁,関谷博,迫田憲治
    • 学会等名
      第10回分子科学討論会
    • 発表場所
      神戸ファッションマート(兵庫県・神戸市)
    • 年月日
      2016-09-13 – 2016-09-15
  • [学会発表] The Influence of Molecular-weight Specific Adsorption of Polyethylene Glycol on Two-state Transition of Myoglobin2016

    • 著者名/発表者名
      Shota Yasutomi, Kenji Sakota, Hiroshi Sekiya
    • 学会等名
      Recent Progress in Molecular Spectroscopy and Dynamics
    • 発表場所
      Kyushu University(福岡県・福岡市)
    • 年月日
      2016-07-07 – 2016-07-09
    • 国際学会
  • [学会発表] Laser Microscopy on Biomolecules Dissolved in a Levitated Single Microdroplet2016

    • 著者名/発表者名
      Kenji Sakota
    • 学会等名
      20th East Asia Workshop on Chemical Dynamics
    • 発表場所
      National Kaohsiung University (Taiwan)
    • 年月日
      2016-06-12 – 2016-06-16
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] 生体膜研究への応用を目指した単一微小液滴のレーザー顕微分光2016

    • 著者名/発表者名
      迫田憲治
    • 学会等名
      研究会「分子を使った寄木細工」~自己組織化したソフトマテリアルが織りなす「かたち」と機能~
    • 発表場所
      島根大学(島根県・松江市)
    • 年月日
      2016-05-27 – 2016-05-28
    • 招待講演

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公開日: 2018-01-16  

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