研究課題/領域番号 |
16K05661
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
迫田 憲治 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 准教授 (80346767)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 微小液滴 / 励起エネルギー移動 / シアニン色素 |
研究実績の概要 |
空間捕捉した単一微小液滴の表面にリン脂質などから構成される膜構造を形成し,ここからの発光を高感度に観測することができれば,モデル生体膜のダイナミクスやタンパク質との相互作用を詳細に調査できる可能性がある.そこで本研究では,単一微小液滴におけるモデル生体膜研究として,細胞膜の染色に用いられるシアニン色素に注目し,その発光スペクトルが微小液滴中においてどのような特徴をもつかについて調査した. 実験は,自作の単一微小液滴レーザー顕微分光装置を用いて行った.カルボシアニン色素 DiIC18(3)およびDiIC18(5)を溶解させた微小液滴に532 nmのCWレーザーを照射し発光スペクトルを観測した.その結果,微小液滴の気液界面における光の全反射に起因するWhispering gallery mode (WGM) が観測された.WGMの解析から,液滴の直径を精密に決定した.また,DiIC18(3)の濃度を固定し,DiIC18(5)の濃度を変化させて微小液滴発光スペクトルを測定したところ,両者の発光強度比に変化が見られた.このことから,DiIC18(3)がドナー分子,DiIC18(5)がアクセプター分子として働き,両者の間で励起エネルギー移動が生じていることが分かった.同様の現象はバルク溶液中でも観測されるが,微小液滴では,バルク溶液で観測される発光強度比と全く異なる結果が得られた.この結果から,微小液滴において,ドナー分子であるDiIC18(3)の発光が微小液滴の共振モードと共鳴し,遠距離にあるアクセプター分子であるDiIC18(5)と共振モードを介して相互作用したこと,つまり共振器共鳴励起エネルギー移動が生じたことが分かった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度の研究では,これまでに開発してきた単一微小液滴レーザー顕微分光装置を用い,カルボシアニン色素の両親媒性分子であるDiIC18(3)とDiIC18(5)に注目することで,これらの間に生じる励起エネルギー移動の観測に成功している.また,DiIC18(3)とDiIC18(5)の間に生じる励起エネルギー移動はバルク溶液と異なり,液滴の共振モードを介した共振器共鳴型で進行することを明らかにした.しかしながら,現在観測できている実験データのみからでは,ドナー分子であるDiIC18(3)とアクセプター分子であるDiIC18(5)の間で生じる共振器共鳴型励起エネルギー移動の距離依存性を詳細に明らかにできていないため,追加実験が必要である.そのため,「やや遅れている」と判断した.
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今後の研究の推進方策 |
通常のバルク溶液中では,フェルスター型の励起エネルギー移動が生じることが知られており,エネルギー移動の距離依存性についても詳細に研究されている.一方,微小液滴内で生じる励起エネルギー移動は異なるメカニズム(共振器共鳴型)で生じている.よって,微小液滴内で生じる励起エネルギー移動の距離依存性を明らかにするために,発光スペクトルを測定し,ドナー分子であるDiIC18(3)とアクセプター分子であるDiIC18(5)の濃度変化に伴う発光強度比の変化を詳細に検討する予定である.一方,フェルスター型で励起エネルギー移動が生じる場合,ドナー分子の発光寿命は短くなるが,共振器共鳴型の場合,ドナー分子の発光寿命に変化が生じない可能性がある.このことを明らかにするため,微小液滴に対して,ピコ秒レーザーを用いた時間相関単一光子計数法を適用し,ドナー分子の発光寿命を計測する予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
共振器共鳴型励起エネルギー移動を示す微小液滴は本質的に発光強度が弱いため,データの積算に予想以上の時間がかかり,実験データを完全には取得できていない.補助事業を延長し,共振器共鳴型励起エネルギー移動の移動効率を詳細に検討するための追加実験が必要である.追加実験を行うために必要な消耗品や成果を公表するための旅費として助成金を使用する予定である.
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