研究課題/領域番号 |
16K05662
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
三枝 洋之 横浜市立大学, 生命ナノシステム科学研究科(八景キャンパス), 教授 (90162180)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 中赤外振動 / 核酸塩基 / マーカーバンド / レーザー脱離 |
研究実績の概要 |
これまでに整備した中赤外レーザー分光装置を用いて、代表的な生体分子の一つである尿酸分子の中赤外振動領域のスペクトルを測定した。その結果、尿酸の一水和物について、2つの構造異性体のローカルモード結合様式に大きな違いがあることを見出した。更にこのモード結合様式の水素結合サイト依存性を利用することで、以前の近赤外領域の測定では困難であった、尿酸-メラミンの水素結合錯体の構造を明確に決定した。このことにより、メラミンが混入した粉ミルク乳幼児に発症した尿結石の核となる水素結合錯体の構造について、分光学的な観点から考察にすることができた。 我々の研究グループは、同様に生体分子の赤外レーザー分光を行っているFrance (CEA)のMichel Mons博士のグループと共同研究を行ってきた。そこで本研究グループで博士号を取得した浅見祐也が、Mons博士の研究室で博士研究員として一年滞在した結果、DNA塩基グアニンに関する共同研究が急速に進展した。DNA中に存在するグアニンのケト互変異性体は、電子励起状態の寿命が短いため、ナノ秒UVレーザー光によるイオン化では観測できないとされてきた。そこで、グアニンの一部をナフチル基で化学修飾し電子励起状態の寿命を長くすることを試みた結果、世界で初めてケト体を観測することに成功した。更にこの修飾グアニンのカルボニル伸縮振動スペクトルを測定し、ケト互変異性体であることを明確に示した。 以上の成果は、中赤外領域の振動スペクトルを高感度で測定できるようになったためで、今後核酸塩基類の構造を敏感に反映するような振動バンド(マーカーバンド)を多く見出すことができると期待される
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
28年10月より研究室が新館に移転したため、その準備と実験装置の立ち下げ、立ち上げに多くの時間と労力を費やした。現在でも一部のレーザーシステムの整備と調整を行っており、29年5月末に終了する予定である。そのため28年度の研究費の一部は今年度に繰越とした。
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今後の研究の推進方策 |
新館への研究室移転により、レーザーシステム等を新たに整備しし直したため、実験の精度や効率が大幅に改善された。今後このシステムを利用することで、著しい研究の進捗が期待される。特に、小型の脱離レーザーを設置することで、効率の良いレーザー脱離法の開発を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
28年10月の研究室の新館への移転に伴い、その準備と実験装置の立ち下げ、立ち上げに多くの時間と労力を費やした。現在でも一部のレーザーシステムの整備と調整を行っており、29年5月末に終了する予定である。そのため28年度の研究費の一部は今年度に繰越とした。
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次年度使用額の使用計画 |
これまでのレーザー脱離法に用いていたレーザーは比較的大型のため、真空装置内に置かれた試料から離れて設置されていた。このためレーザー照射位置が時間とともに変動し、この位置の調整に多くの時間を費やすことが大きな障害であった。本年度予算と繰越予算を持ちいれ、小型の脱離レーザーを設置することで、より安定したレーザー脱離法の開発を目指す計画である。
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