研究課題
気相でのエナンチオマーの選択的検出法については、最近多くの提案がなされている。エナンチオマーの選択は、宇宙空間での化学進化を考える場合にも重要な過程である。光電子円二色性とは、分子にキラリティがあり偏光が円偏光である場合、光電子の強度が光の進行方向について前後非対称となる現象のことである。円二色性とは違い、磁気的相互作用を必要としない。また、光電子の反跳の作用で、ラセミ体が自然に分離すると信じられている。しかし、これまでは光電子円二色性とキラリティとの関係が十分に説明されてこなかった。本研究では、時間反転と点群対称性を考慮して、分子がキラルである場合に限り光電子円二色性が存在することを明かにした。一方で、光電子円二色性は、時間反転に関して対称でも反対称でもないことを明かにした。これは、時間反転に関して対称である円二色性とは異なる。その結果、キラル分子だけでなく、CO分子のπ軌道などについても、光電子円二色性は存在する。このことを、実際の数値計算でも確認した。ただし、縮重したπ軌道は、互いに逆の光電子円二色性を示すので、熱平衡状態では観測されない。光電子円二色性の対称性が明かになったことで、完全な立体化学的考察が可能になった。そこで、応用として光イオンの配向の問題を理論的に解決した。これまで、円偏光による光イオン化について、光イオンが配向する可能性が指摘されてきた。今回、時間反転対称性を考慮することで、光イオンは配向しないという結論を得た。ただし、光電子の反跳を考慮すれば、配向した光イオンが空間的に分離する可能性を指摘した。これまでに、対称性の議論は多くなされてきが、一般調和関数の利用を前提としていたため、多面体群への適用が困難であった。本研究では、既約テンソルと有効演算子を定義することで、すべての点群および時間反転対称性を扱うことを可能にした。
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The Journal of Chemical Physics
巻: 149 ページ: 204312~204312
10.1063/1.5054345