研究課題/領域番号 |
16K05666
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研究機関 | 城西大学 |
研究代表者 |
寺前 裕之 城西大学, 理学部, 教授 (10383176)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 結晶軌道法 / ポリヌクレオチド / 電子状態 / ポリモノヌクレオチド / 電気伝導性 / 有効質量 / ホール伝導 / 電子伝導 |
研究実績の概要 |
最初にDNA計算のためのプログラムを作成した。作成したプログラムは基本となる構造がポリマー軸に対して距離aだけ進む間に角度θだけ回転するという対称性を使用する。2p型も3d型も適用可能であるが、今年度は2p型のみを実装した。ユニットセル内の基底関数の総数制限をメモリーが許す限り大きく取る必要があるが、1000軌道程度は計算できるようにプログラミングを実装した。また結晶軌道計算に使用する原子積分の精度は、DNAのような大規模計算ではその精度が問われてくる。本研究ではGAMESSに使用されている積分パッケージを選択し、全エネルギーが収束するのに必要な隣接ユニット間の積分のカットオフ法を構築したが、DNA計算に対する検証は未だ行えていない。 プログラミングと並行して、本研究では巨大な計算を取り扱うための並列計算機環境を構築した。なるべく安価かつ高性能とするためCPUとしてXeon E5-2660v4を(2.0GHz,14core)のdual構成として28coreを並列使用できる計算機とした。OSとしてはCentOS7.2、並列化ライブラリにmpich-3.2、fortranコンパイラにはgfortranを使用してそれまで使用していた計算機とのポータビリティを確保した。 これらのプログラミングが実装さらた後に、実際の計算に着手した。計算を行っていくモデルDNAについては、二重らせんモデルを使用した。DNA二重らせんは塩基配列、塩基組成、相対湿度、カウンターイオンの組成や濃度により、A, BまたはC型などを取る。一般には水溶液中で安定化するB型が多くの場合に見られるため、本研究で対象としたものもB型である。最も簡単なポリモノヌクレオチド、poly-(dG)poly-(dC)およびpoly-(dA)poly(dT)の二種類に対して計算を行い、現在結果の妥当性を検証している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
既存のプログラムを拡張してDNA計算を可能とする作業は順調に進み、小さなポリマーによるテスト計算では問題は生じなかった。次にDNA計算が可能となるように、28コアの計算機を導入し、並列計算環境を整備した。作成済みの計算プログラムを移植して、並列処理を可能とするべくテスト計算を繰り返したが、予測できなかったプログラミング上の障害が発生し、その誤りの原因追及に思った以上の時間が必要となった。 発覚した問題点は計算規模が大きいことに起因するものであり、整数変数の値が32bitを超えてしまうために発生した。並列処理のcoreを振り分けるための変数が32bitを超えてしまう箇所が残っていたため、単一coreではエラーが起こらないが、並列処理を行った際に微妙に結果が異なる場合が生じた。これは小さなポリマーを用いたテスト計算では全く生じないため、一度のテスト計算に数時間を要する事態となってしまいデバッグ作業が非常に困難となってしまった。最終的にエラー箇所が特定できたものの、これらのエラー箇所の特定に非常に多くの時間を費やした。 並列計算が無事行えるようになったため、B型DNAの一番簡単なモデルとして最も簡単なポリモノヌクレオチド、poly-(dG)poly-(dC)およびpoly-(dA)poly-(dT)の二種類に対する計算を行った。得られたバンド構造から、バンド伝導に重要な物理量としての有効質量を計算したが、これらの数値が考慮する隣接セル数によりかなり変化してしまうことが判明した。信頼できる計算値を得るためには、考慮しているよりも大きな隣接セル数が必要と考えられるため、さらに現状よりは大規模となる追加の計算が必要となっている。 以上の2つの理由により、予定よりはやや遅れている。特にオリゴマー計算との比較が未だ未着手である。
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今後の研究の推進方策 |
最も簡単なB型DNAモデルとしてのポリモノヌクレオチド、poly-(dG)poly-(dC)およびpoly-(dA)poly-(dT)の二種類に対する有効質量の計算によって隣接セル数の不足が示唆されたため、より詳しく調べる必要が生じた。また隣接セル数の増加によりconduction bandのエネルギー値が正値から負値に転ずることも判明している。これは電子伝導に関して非常に重要な結果であるので、今後はまずこの隣接セル数に対する各種物性値がどのように変化・収束するかについて検討を行っていく。 隣接セル数の検討に並行して、より大きなモデルポリマーである、ポリディモノヌクレオチドについての計算を行っていく。ポリディモノヌクレオチドについては、poly-(dA-T)poly-(dA-T), poly-(dA-C)poly-(dG-T), poly-(dA-G)poly-(dC-T), poly-(dG-C)poly-(dG-C)の4種類のポリマーが考えられる。さらに比較を簡単にするために、ポリモノヌクレオチドのユニットセルを2倍にしたpoly-(dA-A)poly-(dT-T), poly-(dG-G)poly(dC-C)の二種類を加えて全体的に比較していく。最終的には上で検討した隣接セル数を用いて再計算を行い最終的な結果とする。また全ての結果をドデカマー程度のオリゴマー計算を行い比較する予定である。また電子状態の無限鎖と有限鎖の比較は末端効果の機能物性への影響を知るためにも興味深い。そこで、オリゴマー計算の手法としては大規模なクラスター計算を可能とするElongation法を用いて、DNAの様々なシーケンス配列に対しいくつかの塩基対セットをユニットとする無限鎖の計算結果との比較を行っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
DNA電子状態のシミュレーション装置として、80万円程度を予定していたが、CPUの大幅な値下がりがあったため、差額が13万円程度生じてしまったがより高性能なCPUに変更するには予算が足りなかったため、当初の予定のものとなった。出張旅費に関しては、飛行機運賃が予定していたよりも安価に収まったため予算額を30万円程度下回った。人件費および消耗品類に関しては、当該年度については、利用しなかったため20万円が未使用となった。
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次年度使用額の使用計画 |
物品費として次年度購入予定のノートPCをより高性能なものに変更する予定。また消耗品類としてハードディスク等の購入を行う。海外出張や国内出張については、より積極的に機会を作り成果の発表を行っていく予定。
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