研究課題/領域番号 |
16K05668
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
藪下 聡 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (50210315)
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研究分担者 |
岩田 末廣 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 訪問教授 (20087505)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 複素基底関数法 / 光イオン化断面積 / 非同次シュレディンガー方程式 / 複素ガウス型基底関数 / Dyson振幅 / スピン軌道相互作用 / 負イオン光電子スペクトル / 局所射影分子軌道法 |
研究実績の概要 |
1. 従来の光イオン化全断面積だけでなく、その微分断面積や分子座標光電子角度分布も複素ガウス型基底関数を用いて評価できることを示した。特に微分断面積の計算では、終状態が内向波型境界条件を満足するように、2ポテンシャル法を用いて、ゼロ次波動関数と1次摂動波動関数を別々に複素基底関数法で変分的に最適化して用いた。H2についてStatic-exchange 近似とRandom-Phase近似を応用して、それぞれ正確な微分断面積の計算を行った。この成果によると、通常の量子化学計算で用いるGTO基底関数に数個の複素GTOを追加するだけで光イオン化微分断面積まで計算できることになり、今後の応用研究への足がかりを築いた。 2.非同次型シュレディンガー方程式の解である1次摂動波動関数の虚部は、非同次項の詳細によらないという特徴を持つ。これを生かして、非同次項を、中心がaで幅bの球対称ガウス型関数で表現し、さらに複素基底関数による連続波動関数の展開が高精度に行えるように、a, bを最適化した。その結果、従来に比べて原点からかなり離れた領域でも1次摂動波動関数の形状をよく再現でき、位相シフトの計算精度を向上することができた。ただし光イオン化全断面積の計算精度は、この人工的な非同次項を使うよりも、正確な始状態の波動関数と遷移モーメントを非同次項に用いた方が良かった。これは振動数依存分極率の変分的な性質のためであると考察した。 3.希土類錯体の負イオン光電子スペクトルを理論的に評価するため、Dyson振幅の計算プログラムを、スピン軌道相互作用も考慮できるように拡張し、応用計算により、スピン軌道相互作用の重要性を考察した。
4.局所射影分子軌道法に基づく摂動論を用いて、ナトリウムイオンの水和クラスターにおける水水間の水素結合を解析し、水素結合ネットワークに対する水和イオンの影響を調べた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究成果により、複素STO基底関数だけでなく複素GTO基底関数の有用性が、微分断面積の計算においても確認できた。また非同次シュレディンガーの解の虚部として与えられる正則連続解は、原理的に非同次項の形状によらないという任意性を持つ。この性質を活用して従来法に比べて効率の良い展開法の開発を試したところ、連続波動関数の形状は確かに良くなったものの、それを用いた遷移モーメントの値は、それほど改善されず、むしろ悪くなる場合もあった。次年度はこれらの点を含めて、更なる計算手法の開発を計画している。
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今後の研究の推進方策 |
・分子用プログラムに対して全体的な最適化を行い、また軌道指数の最適化アルゴリズムを工夫する。 ・αの虚部を複素数軌道指数に依存した形式として表現し、さらにそれを境界条件として持つDirichlet問題の解として表現する手法を完成させる。この手法が完成すると、従来のモーメント法が不得手であった、断面積が幅の狭い共鳴状態を含むような場合でも、実数基底関数だけを用いて計算が可能になる。現時点での問題点は、実数軌道指数を変化させて、安定化法的に振動数依存分極率を効率よく多数回計算することと、境界条件を正確に表現し、解析接続を効率よく行うことである。
・吸収ポテンシャル法と複素座標法との関係を明確にし、新たな計算手法の開発につなげる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初は2018年2月に米国で開催された国際会議に出席、発表予定であったが、避けられない学内業務と日程が重なってしまい、参加できなかった。このため21万円ほどが次年度使用額として生じた。この分は2019年の国際会議の旅費として使用予定である。
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