研究課題
複素基底関数(CBF)法は、連続波動関数を自乗可積分の基底関数で表現する計算方法の一つである。これまで非相対論の枠内で、原子・分子の共鳴状態エネルギーと幅、光イオン化全断面積、部分断面積、微分断面積などの定量的計算を示してきた。本年度は昨年度に続き、CBF法の相対論化の可能性を調べるため、1電子ウランイオンのK殻電子の光イオン化問題を扱った。電子-核間相互作用にクーロンポテンシャルを、また高振動数で顕著になる光子場の多重極効果を非同次項に取り入れ、基底関数として複素STOを用いた非同次ディラック方程式の1次摂動波動関数を解いた。このCBF解の虚部は原子領域においてディラック方程式の連続正則解を高精度に表現し、相対論特有のローレンツ収縮を示した。1電子問題でありながら、振動数依存分極率の虚部は、中性ウラン原子の光イオン化全断面積の実験値とよく一致した。原子領域における各部分波のCBF解の虚部を4次Runge-Kutta法またはWKB近似の解に接続・補外して位相シフトを評価し、光イオン化微分断面積を計算したところ、光子エネルギー400keV程度まで実験値とよく一致した。微分断面積の実験結果に見られる前方シフトは、量子論的には光子と光電子の運動量保存、また古典論的には磁場のローレンツ力によって生じると解釈した。その他、電磁場の多重極効果、小成分波動関数や有限核の影響を議論した。相対論の枠内でもCBF法の有効性が示され、今後の展開が期待される。Dyson振幅を使って近似的に光脱離強度を計算する際に、負イオン始状態と中性終状態の分子軌道の形状が、軌道の緩和効果で大きく異なり、計算が困難になる場合がある。その解決策としてcorresponding軌道を使う計算プログラムを作成した。また、水クラスターにおいて、隣接分子からの影響を含めた指標を新たに導入し、クラスターの安定性、水素結合の強度に対する第2、第3隣接分子の寄与を定量的に表現することができた。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件) 学会発表 (12件) (うち国際学会 5件、 招待講演 5件) 備考 (2件)
Journal of Physics B: Atomic, Molecular and Optical Physics
巻: - ページ: -
https://doi.org/10.1088/1361-6455/ab7fc0
International Journal of Research in Chemistry and Environment (IJRCE)
巻: 9 ページ: 1-9
https://k-ris.keio.ac.jp/html/100011672_ja.html?k=%E8%97%AA%E4%B8%8B%E8%81%A1#item_koara_2
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