研究課題/領域番号 |
16K05669
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
酒井 健一 東京理科大学, 理工学部先端化学科, 講師 (20453813)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 両親媒性物質 / 吸着 / 界面 / 原子間力顕微鏡 / 水晶振動子マイクロバランス |
研究実績の概要 |
固体と溶液の界面に対する両親媒性物質(界面活性剤)の吸脱着挙動を解明することは、幅広い化学産業分野の発展に資する実学である。しかし、これまでに行われてきた非水媒体中での検討は極めて限定的かつ離散的であった。そこで本課題では、原子間力顕微鏡(AFM)法と水晶振動子マイクロバランス(QCM-D)法を主要な解析手法と位置づけ、固体/非水溶液界面に対する両親媒性物質の吸脱着挙動を評価し、得られた知見の体系化をめざしている。 平成29年度は主に、オレイン酸を出発原料とし、親水部としてカルボン酸を有するジェミニ型両親媒性物質を合成し、その親水性固体(シリカ・酸化鉄)表面に対する吸脱着挙動を極性油(エステル油)中で評価した。QCM-D測定の結果、ジェミニ型両親媒性物質の吸着量は比較物質(オレイン酸)のそれよりも有意に多くなることがわかった。この傾向は、固体基板種の違いによらず、同様に確認された。このような吸着量の差は、両化合物のエステル油中における溶解性の差に起因していると考察した。また、AFMのフォースカーブ測定結果を解析したところ、ジェミニ型両親媒性物質の方がオレイン酸よりも、耐圧縮性の高い吸着膜を両基板上に形成していることが示唆された。 以上の取り組みに加えて、これら両親媒性物質が形成した吸着膜による摩擦低減効果も検証した。摩擦力の測定は、走査型プローブ顕微鏡(SPM)法により行った。その結果、基板種によらず、ジェミニ型両親媒性物質の方がオレイン酸よりも動摩擦係数の値は小さくなったことから、前者の方が摩擦低減効果に優れていることが示唆された。詳細な解析は次年度以降に実施するが、吸着量が多く、耐圧縮性の高い吸着膜が固体/エステル油界面に形成されることで、摩擦低減効果を大きくしている可能性が想定される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
固体/イオン液体界面に対する水および両親媒性物質(非イオン性界面活性剤)の同時吸着挙動に関する研究成果は、平成28年度、国際専門誌にその成果を投稿し受理された。本件は交付申請書に記載した研究実施計画と一致しており、順調な進展を裏づけている。 平成29年度は主に、オレイン酸を出発原料としたジェミニ型両親媒性物質の固体/エステル油界面に対する吸脱着挙動を評価してきた。固体種としては、シリカと酸化鉄の二種類を選択した。水晶振動子マイクロバランス(QCM-D)測定により、振動数の変化量(吸着量に指標)とエネルギー散逸値の変化量(吸着膜の粘弾性状態の指標)をそれぞれ見積もり、形成された吸着膜に関する定量的な情報を得ることができた。また、原子間力顕微鏡(AFM)によるフォースカーブ測定の結果から、吸着膜の耐圧縮性に関する議論も行った。さらに、これらジェミニ型両親媒性物質が形成した吸着膜による摩擦低減効果についても、ナノトライボロジーの観点から議論した。これらはすべて、交付申請書に記載した研究実施計画と一致する進捗状況である。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度と平成29年度の研究成果をふまえ、ジェミニ型両親媒性物質の選択をあらためて行う。具体的には、吸着挙動と摩擦挙動に及ぼすジェミニ型両親媒性物質のアルキル鎖長依存性を明らかにする。これら研究成果は学会発表や論文発表を通じて公表し、ジェミニ型両親媒性物質の摩擦低減剤としての利用可能性を提言する。また、効率的かつ能動的に摩擦力を低減できる処方条件を見出し、省資源・省エネルギーといった現代社会からの要求に応え得る成果にまとめていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由:旅費および「その他の費目」について、それぞれ支出額を抑制した結果、約5万円の次年度使用額を生じた。
使用計画:平成30年度の物品費(消耗品)に加算して使用する予定である。
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