固体と溶液の界面に対する両親媒性物質(界面活性剤)の吸脱着挙動を解明することは、幅広い化学産業分野の発展に資する実学である。しかし、これまでに行われてきた非水媒体中での検討は極めて限定的かつ離散的であった。そこで本課題では、原子間力顕微鏡(AFM)法と水晶振動子マイクロバランス(QCM-D)法を主要な解析手法と位置づけ、固体/非水溶液界面に対する両親媒性物質の吸脱着挙動を評価し、得られた知見の体系化をめざしてきた。 平成30年度は主に、オレイン酸を出発原料とし、親水部としてカルボン酸を有するジェミニ型両親媒性物質を合成し、その親水性固体(シリカ・酸化鉄)表面に対する吸脱着挙動を極性油(エステル油)中で評価した。前年度までの研究成果を考慮し、ジェミニ型両親媒性物質の濃度依存性やアルキル鎖長依存性、さらにはエステル油の種類に着目した検討も行った。その結果、ジェミニ型両親媒性物質の吸着量はエステル油中での溶解度に強く依存することがわかった。具体的には、ジェミニ型両親媒性物質の溶解度は比較物質として用いたオレイン酸やステアリン酸のそれよりも小さく、その結果、固体表面への吸着量は有意に多くなることがわかった。また、高極性のエステル油中に比べて、低極性のエステル油中ではジェミニ型両親媒性物質の溶解度は小さくなるので、吸着量は低濃度領域からでも多くなる傾向が示された。 こうした吸着量の差は吸着膜の耐圧縮性と摩擦低減能に影響することもわかった。すなわち、ジェミニ型両親媒性物質が形成した吸着膜は、耐圧縮性が高く、摩擦低減能に優れていることが示された。以上の研究成果は、固体/非水溶液界面に対する両親媒性物質の吸脱着挙動を体系的にとらえているばかりでなく、オレイン酸系ジェミニ型両親媒性物質の油性剤(摩擦低減剤)としての利用可能性を示唆するものである。
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