研究課題/領域番号 |
16K05682
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
関口 章 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 招聘研究員 (90143164)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ケイ素-ケイ素三重結合化合物 / 高周期元素化学 / 多重結合 / π電子化合物 / X線結晶構造解析 |
研究実績の概要 |
ケイ素原子間にできるπ結合はエネルギー準位の高いHOMOとエネルギー準位の低いLUMOを有しており、それに起因した物性の発現が期待されている。その中でも特に、アセチレンの高周期元素類縁体である三重結合ケイ素化学種ジシリンはトランス折れ曲がり構造を持ち、アセチレンとは構造化学的にも、反応化学的にも大きく異なっている。これまで嵩高いトリアルキルシリル基を置換基とする単離可能なジシリンと有機小分子との反応を詳細に解析することで、ケイ素π電子系の物性解明と、材料科学の基礎としての高周期典型元素化合物の化学、合成法の開拓、構造論、反応論を展開してきた。ジシリンの求核反応を受けやすい反応性に着目し、昨年度に引き続き、アルカリ金属ハロゲン化物やアジド化合物との付加反応を検討し、付加体の各種分光学的データと理論計算による解析を詳細に検討した。 ケイ素-ケイ素三重結合化合物ジシリンと無機塩との反応性の解明および新規な含ケイ素多重結合化合物の合成を目的として検討し、ジシリン(R-Si≡Si-R, R=SiiPr[CH(SiMe3)2]2)にアルカリ金属ハロゲン化物を作用させるとジシレニド型の付加体を与えることを明らかにした。一方、ジシリンとアルカリ金属擬ハロゲン化物との反応ではシアノ置換ジシレニドやイソチオシアナト置換ジシレニドを生成した。また、カリウムアジド、ナトリウムアジドとの反応で脱窒素を伴ってジシラケテンイミニド型化合物を与えることを明らかにした。各種分光学的データと理論計算による解析の結果、ジシリンとアジ化物イオンの[2+3]付加環化中間体を経て、置換基の転位と脱窒素により生じたことが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ジシリンの化学において、これまで有機性分子との反応性について詳細に研究が進められてきたが、ジシリンと無機物との反応の例はほとんど知られていなかった。前年度に引き続いて、本研究課題の研究実施計画であるジシリンの反応性に関する研究として、アルカリ金属ハロゲン化物との反応でハロゲン化物イオンを検討したところ、ケイ素上のハロゲンとアルカリ金属が結合した様々なジシレニド型の付加体へと誘導することに成功した。これはジシリンによって非対称なケイ素-ケイ素二重結合ジシレンへの変換反応が可能であることを示すものである。ハロゲンとアルカリ金属が結合したジシリノイドはこれまで全く研究例がなく、その単離や構造解析にも成功し、付加体の物性等を明らかにしたことは特筆すべき成果であり、新規ジシレン合成やジシリン前駆体の設計などの関連分野の今後の発展に大きく貢献することが期待できる。また、新たなケイ素三重結合化合物の合成試剤として期待できるトリメタル化シランの合成検討についても検討し、一つのケイ素原子が三重の求核反応点となるトリリチオシラ[RSiLi3]の発生を捕捉実験により確認した。この鍵反応剤を用いれば、非対称置換型ジシリンの合成に応用できると期待され、当初の研究実施計画を概ね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究計画は順調に進展しており大幅な変更の必要はない。平成30年度も引き続きケイ素-ケイ素三重結合化合物ジシリンの反応性に関する研究を展開し、これまでの研究成果に立脚した当初の計画に従って推進できるものと考えている。しかし、ジシリンの反応性の解明は進んできた一方で、ジシリン自体の合成・単離はいまだに10例未満に限られており、多種多様な置換基を持つジシリンの合成、構造解析、物性・反応性に関する実験的研究は、高周期元素π電子系化合物の物性解明には必要不可欠であると考えている。現時点では、置換基や骨格元素の組み合わせが限定的であり、高周期典型元素多重結合化合物に関する定性的な理解は格段に進歩したものの、より詳しく定量的に構造と反応性の相関を明らかにしていくためには、置換基の種類や構成元素の組み合わせを変化させ、その構造や物性を解明していくことが必要である。本年度の予備的な成果の一つであるトリリチオシランの生成に関する実験条件の最適化を進め、その合成的利用を精査し、新規ケイ素三重結合化合物の合成や還元的脱ハロゲン化による三重結合化合物新規ジシリンへの変換反応も検討をしたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)研究計画での旅費額は「研究計画の旅費500,000円」を予定していたが、実支出額は221,960円であり、差額の278,040円を生じた。これは残額の55%であり、次年度への繰越の大半を占める。主な、理由は、予定していた国際会議に出席できなかったために差額が生じた。
(使用計画)最終年度の本基盤研究(C)の研究課題を遂行するための情報収集や成果発表は、学術助成金基盤研究(C)の旅費を使用して研究課題を遂行する。
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