研究実績の概要 |
ケイ素原子間にできるπ結合はエネルギー準位の高いHOMOとエネルギー準位の低いLUMOを有しており、それに起因した物性の発現が期待されている。その中でも特に、アセチレンの高周期元素類縁体である三重結合ケイ素化学種ジシリンはトランス折れ曲がり構造を持ち、アセチレンとは構造化学的にも、反応化学的にも大きく異なっている。単離可能なジシリンと有機小分子との反応を解析することで、ケイ素π電子系の物性解明と、材料科学の基礎としての高周期典型元素化合物の化学、合成法の開拓、構造論、反応論を展開してきた。本研究ではジシリンの求核反応を受けやすい反応性に着目し、昨年度に引き続き、アルカリ金属ハロゲン化物及び新たにカルボニル化合物との付加反応を検討した。ジシリン(R-Si≡Si-R, R=SiiPr[CH(SiMe3)2]2)とフッ化カリウムをTHF中、室温で反応させ、2.2.2-クリプタンドを加えることで、アニオン性ケイ素-ケイ素二重結合構造を持つジシレニド型化合物 [R-Si=Si(F)-R]-・K+ (2.2.2-cryptand)を結晶として単離することができた。しかし、フッ化リチウムやフッ化ナトリウムとは反応せず、金属ハロゲン化物の格子エネルギーが反応性に関与していることが明らかとなった。ジシリンとチオシアン酸カリウムなどのアルカリ金属擬ハロゲン化物との反応を行い、イソチオシアナト置換ジシレニド誘導体が生成することを明らかにした。ジシリンとテトラフェニルシクロペンタジエノンとの反応で酸素置換5員環ジシレン骨格を有するテトラフェニル-4-オキサ-2,3-ジシラビシクロ[3.3.0]オクタ-2,5,7-トリエン誘導体が得られた。また、各種分光学的データから特異な分子構造を持つ酸素置換5員環ジシレンは、酸素原子の非共有電子対とジシレンのπ軌道間での共役が発現することが明らかになった。
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