研究実績の概要 |
これまでに申請者は嵩高いトリアルキルシリル基で立体的に保護した3配位シリルラジカル種を安定な化学種として合成、単離できることを見出している。これを基盤として、ベンゼンなどの炭素π電子系で複数の3配位シリルラジカルを連結したオリゴ(シリルラジカル)種の合成に拡張して、分子構造およびスピン状態の解析を行ってきた。また、ケイ素-ケイ素単結合におけるσ結合電子が非局在化(σ共役)することに着目し、ジシラン鎖で2つの3配位シリルラジカルを連結したテトラシラン-1,4-ジイル種の合成にも成功し、予備的な構造解析、スピン状態の解析を行ってきた。本研究課題の初年度(平成28年度)では、さらにケイ素鎖長を伸ばしたトリシラン、テトラシランで2つの3配位シリルラジカルを連結したペンタシラン-1,5-ジイル種、テトラシラン-1,6-ジイル種の合成を検討し、既に合成に成功しているテトラシラン-1,4-ジイル種を含めてスピン状態について解析した。 ペンタシラン-1,5-ジイル種、テトラシラン-1,6-ジイル種は、両端に嵩高いトリアルキルシリル基を導入した対応する1,5-ジブロモペンタシラン、1,6-ジブロモヘキサシランの還元的脱臭素化により合成した。トラシラン-1,4-ジイル種が室温でも十分に安定であることとは対照的に、ペンタシラン-1,5-ジイル種、テトラシラン-1,6-ジイル種は-30℃以下でも徐々に分解するほど不安定であった。 トラシラン-1,4-ジイル種、ペンタシラン-1,5-ジイル種、テトラシラン-1,6-ジイル種のEPRスペクトルの解析から、それらはいずれも基底一重項種であるが一重項―三重項のエネルギー差がそれぞれ約2.5 kJ/mol、約1.6 kJ/mol、約0.1 kJ/molであり、連結子のケイ素鎖長が伸びるとσ共役を介したスピン間相互作用が小さくなることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
申請段階における平成28年度の計画のうち、σ共役系オリゴシラン鎖を連結子とするビス(シリルラジカル)種としてトリシランおよびテトラシラン鎖を連結子とするペンタシラン-1,5-ジイル種、ヘキサシラン-1,6-ジイル種の発生に成功し、そのスピン状態の解析まで完了した。一方で、平成28年度が共同研究者である教授の定年退職直前であったことに伴い研究室の学生数が減ったため、ナフタレンやビフェニルなどの拡張炭素π電子系を連結子とするビス(シリルラジカル)およびそのゲルマニウム、スズ類縁体の合成には着手することが出来ず、やや遅れていると考えている。
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